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第20回 シーズン2 エピソード10
ぐるぐるワンの作り方(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

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ユーリが持ってきた《時計パズル》には、変な時計が $3$ 個ついている。 《$2$ の時計》と《$3$ の時計》と《$5$ の時計》だ。
リセットボタンを押すと $3$ 個の時計はすべて $0$ を指す。
そしてカウントボタンを押すたびに、 $3$ 個の時計すべてが $1$ ずつ進む。

ユーリ「お兄ちゃん。問題はこーだよ」

時計パズルの問題

リセットボタンを押すとパターン $0,0,0$ になります。

ここからカウントボタンを何回押せば、目的のパターン $0,2,4$ になるでしょうか。

「《カウントボタンを押した回数とパターンの一覧表》を作れば解けるよね」

ユーリ「えー、めんどいじゃん!」

「表を作るのは大事なんだよ」

ユーリ「計算でバシっと解けないの?」

「そうだなあ……」

ユーリ「時計が $1$ 個なら簡単なんだけどにゃ……」

「そりゃそうだ……ん?」

ユーリ「へ?」

「時計を $1$ 個にすればいい! うんうん。時計を $1$ 個にして、 $1$ を作ればいい!

ユーリ「お兄ちゃーん、日本語でお願いしまーす!」

こうだったらいいのになあ

「じゃあ、ちゃんと話すよ。ねえユーリ。ユーリが持ってきたこの《時計パズル》は、なぜややこしいんだろうか」

ユーリ「へ? ぐるぐる回るからっしょ?」

「確かにそうだ。ぐるぐる回るからややこしい。でも、ユーリが言ったように《時計が $1$ 個》だとしたら話は簡単だ。ややこしくない」

ユーリ「だって……」

「たとえば《$5$ の時計》が $1$ 個だけだとしようか。 それなら、《$5$ の時計》に指させたい数字の回数だけカウントボタンを押せばいい。 $4$ にしたいなら、カウントボタンを $4$ 回押せばいい」

ユーリ「そりゃ、そーだけど……」

「さらに、 $4$ 回押した後、 $5$ の倍数だけさらに追加で押してもいいね。 $4$ 回押した後、 $5$ 回押しても、 $10$ 回押しても、 $15$ 回押しても、《$5$ の時計》は $4$ を指したままだ」

ユーリ「それは、 $5$ 回押せばぐるっと回るからだよね?」

「そうそう。カウントボタンを $5$ 回押すごとに《$5$ の時計》はぐるっと戻って $0$ を指すから」

ユーリ「でもさー、《時計パズル》には時計が $3$ 個あるんだから《時計が $1$ 個なら話は簡単》……なんて言ってもしょーがないじゃん!」

ユーリは腕組みをしてふむっと鼻を鳴らした。

「うん、そうなんだけど、《こうだったらいいのになあ》と願うのはとてもいいことなんだよ」

ユーリ「なんで?」

「つまり、それが問題を解く《手がかり》になるからなんだ。考えを進める方向が少し見えたことになる。 ミステリーと同じだよ。手がかりをしっかり捕まえて……」

ユーリ「ミステリーもいーんだけどさー。この《時計パズル》ではどーすんの?  $3$ 個の時計を $1$ 個にする方法なんてないじゃん?」

「あるんだ。 $3$ 個の時計を $1$ 個にする方法はあるんだよ!」

$3$ 個の時計を $1$ 個にする方法

ユーリ「は?  $3$ 個の時計を $1$ 個にする?」

「ほら、お兄ちゃんがカウントボタンを押してたら、ユーリがストップを掛けたよね。ちょうど $6$ 回押したときだ(第19回参照)」

ユーリ「うん」

「リセットボタンを押すとパターン $0,0,0$ になる。そこから始めて $6$ 回カウントボタンを押すと、パターン $0,0,1$ になるよね」

パターン $0,0,0$ から $6$ 回カウントボタンを押すと、パターン $0,0,1$ になる

ユーリ「そーだけど」

「パターン $0,0,1$ だと、《$2$ の時計》と《$3$ の時計》はどちらも $0$ になっていて、 《$5$ の時計》だけが $1$ になってるよね」

ユーリ「それがどしたの?」

「僕たちは《$2$ の時計》も《$3$ の時計》もぐるぐる回って $0$ に戻ってきたことを知ってるけど、 そのぐるぐるは、あえて見なかったことにする」

ユーリ「見なかったことにする?」

「そうだよ。そして改めてパターン $0,0,1$ を見ると、 まるで、《$2$ の時計》と《$3$ の時計》は止まっていて、《$5$ の時計》だけが $1$ 進んだように見えないかな」

ユーリ「むむむむ! 確かにそー見えるけど!……見えるけど……見えるけど?」

「そうなんだよ。僕がさっき《時計を $1$ 個にして、 $1$ を作ればいい》といったのはこのパターン $0,0,1$ がひらめいたからなんだ」

ユーリ「お兄ちゃん、ユーリ、わかんないよ。何のことを言ってるの?」

「ちゃんといえばこうだよ」

パターン $0,0,0$

 ↓ カウントボタンを $6$ 回押すと《$5$ の時計》だけが $1$ 進む

パターン $0,0,1$

ユーリ「それはわかってるよ! だからなんなの!」

「パターン $0,0,1$ から、さらに $6$ 回押したら、パターン $0,0,2$ になるよね?」

パターン $0,0,1$

 ↓ カウントボタンを $6$ 回押すと《$5$ の時計》だけが $1$ 進む

パターン $0,0,2$

ユーリ「あっ、わかった! お兄ちゃんの言いたいことがわかった!  $6$ 回押すたびに、《$5$ の時計》だけが、 $1$ ずつ進むってことだね!」

「そうそう、そこだよ。 $6$ 回押すたびに、《$5$ の時計》だけが、 $1$ ずつ進む。 他の時計はまったく動かないと見なしてもいい。 《$6$ 回まとめて押す》のを何回か繰り返せば、他の時計をまったく動かさないままで、《$5$ の時計》を好きな数まで進められるよね!」

ユーリ「うん、そーだね!」

「《$6$ 回まとめて押す》のをひとまとまりとして考えれば、時計は $1$ 個しかないのと同じだ。だって《$5$ の時計》しか動かないんだから」

ユーリ「そっか……むむむむ! もしかして、お兄ちゃん!」

「ユーリ、気づいた?」

ユーリ「もしかして、お兄ちゃん、 $3$ 個の時計を、 $1$ 個ずつ合わせていくつもり?」

「正解!」

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(2013年3月15日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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