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第32回 シーズン4 エピソード2
並ぶ数、広がる数(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』として書籍化されています。

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「オセロゲームはもういいよ」

ユーリ「なんで? ユーリにかなわないから?」

「そういうわけでもないけど、別の並べ方で遊んでみよう」

ユーリ「また、エル字?」

「いやいや、たとえばね……ユーリ、オセロの盤こっちによこして」

ユーリ「やだ」

「やだ……って」

ユーリ「ユーリが並べる。こんなのはどーお?」

「黒白のマダラ?」

ユーリ「ちがうちがう。ナナメに見るの」

「なるほどね。これは $1,2,3,\ldots$ という数列になるね。自然数の列だ。ああ、じゃ、これで遊ぼう。盤、貸して」

ユーリ「へーい」

ひとつずつ、ひとつずつ

「せっかく並べてくれたところ悪いけど、ナナメは考えにくいからヨコにするね」

ユーリ「これじゃつまんないよ」

「まあまあ。ヨコに並んだ石を数えていくと、何がわかるかな」

ユーリ「何がわかるかな……って、順番に $1,2,3,4,\ldots$ ってなってるだけじゃん」

「そうだね。オセロ盤は $8 \times 8$ だから、 ここでは $1,2,3,4,5,6,7,8$ までだけど、その気になればいくらでも続けられるね。自然数の列だ」

自然数の列

$$ 1,2,3,4,5,6,7,8,\ldots $$

ユーリ「それで?」

「それでね、上から順番に見ていくと、いつも $1$ 個ずつ増えていることがわかる」

ユーリ「まー、そりゃそーだね。順番に並べたんだもん」

「これを見ると《$1,2,3,\ldots$》から《$1,1,1,\ldots$》ができることがわかるよね」

ユーリ「え? どゆこと?」

「《どれだけ増えたか》を並べてやれば、新しい数列になるってことだよ。こんなふうに書いたほうがわかりやすいかな」

ユーリ「ふんふん」

「数列に並んでいるひとつひとつの数のことを、数列のこうっていうんだけど」

ユーリ「こう?」

「うん、数列の項。 で、《$1,2,3,\ldots$》という数列の、隣り合った二つの項のをとって《$1,1,1,\ldots$》という別の数列を作ったことになる」

ユーリ「別の数列?」

「そう。《$1,2,3,\ldots$》という数列から、《$1,1,1,\ldots$》という別の数列を作ったんだ。 こんなふうにして作った数列のことを階差かいさ数列っていうんだよ」

ユーリ「かいさすうれつ……ねえ、お兄ちゃん。《$1,1,1,\ldots$》みたいに同じ数が並ぶのも数列っていうの?」

「うん、いうよ。 $1$ という一つの定数が並んだ数列だから、定数列だね」

ユーリ「そーなんだ」

「だから、《$1,2,3,\ldots$》の階差数列は、《$1,1,1,\ldots$》という定数列になるということ」

ユーリ「ふむふむ」

ひとつおき

「今度はね、オセロに並べた石の列を《一つおき》に抜き出してみよう。するとこうなる」

ユーリ「一つおきだから、 $1,3,5,7$ になった」

「そうだね。オセロ盤の制限がなければ $1,3,5,7,9,11,13,\ldots$ と続けられるよね。 これは奇数の列になる」

奇数の列

$$ 1,3,5,7,9,11,13,\ldots $$

ユーリ「ふんふん、そりゃそーだね」

「それでね、この奇数の列について上から順番に見ていこう。 そうすると、今度はいつも $2$ 個ずつ増えていることがわかる」

ユーリ「おおっ、これは! ……って、お兄ちゃん! それは、あたりまえではないんでしょーか」

「ノリツッコミありがとう」

ユーリ「自然数の列は $1$ 個ずつ増えてたんだもん。一つおきなら $2$ 個ずつ増える計算じゃん」

「それじゃね、奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は何になる?」

クイズ

奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は何になる?

ユーリ「カンタン、カンタン! 奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は $2,2,2,\ldots$ でしょ?」

「そうだね。 $2$ という定数から作られる定数列になる」

クイズの答え

奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は、 $2,2,2,\ldots$ という定数列になる。

また、ひとつおき

「今度は、奇数の列を抜き出した残りをみてみよう」

ユーリ「偶数じゃん」

「うん、偶数の列だね」

偶数の列

$$ 2,4,6,8,10,\ldots $$

「偶数の列の階差数列は何になるかな」

ユーリ「これもカンタン。 $2,2,2,\ldots$ でしょ?」

「そうだね」

ユーリ「あれ? 奇数の列も、偶数の列も、階差数列はおんなじだね」

「そうだね。どちらも $2,2,2,\ldots$ になる」

平方数

ユーリ「ねえお兄ちゃん。階差数列っていつも定数列になるの?」

「そうとは限らないよ」

ユーリ「でも、奇数も、偶数も、自然数も、定数列になったよ」

  • 《奇数の列》の階差数列は、定数列 $2,2,2,\ldots$ になる。
  • 《偶数の列》の階差数列は、定数列 $2,2,2,\ldots$ になる。
  • 《自然数の列》の階差数列は、定数列 $1,1,1,\ldots$ になる。

「そうだね。でもたとえば、自由に考えた数列の階差数列を求めたら、定数列にはならないさ」

ユーリ「そかそか、そーだよね」

「じゃ、たとえば、平方数の列の階差数列はどうなると思う?」

平方数の列

$$ 1, 4, 9, 16, 25, 36, \ldots $$

ユーリ「どうなるの?」

「やってごらんよ」

ユーリ「えーと……そっか、順番に引けばいいだけか。最初が $4 - 1 = 3$ で、次が $9 - 4 = 5$ で……」

ユーリ「……できた。 $3, 5, 7, 9, 11, 13, \ldots$ って、これ、奇数の列! これってエル字の石の個数じゃん!」

「そうだね。いまユーリが計算してくれたように、《平方数の列》の階差数列は、《$3$ から始めた奇数の列》になる」

ユーリ「くう、計算いらなかった! やられた!」

謎の数列

「じゃ、ここでクイズだよ。この《謎の数列》は何だろうか」

クイズ(謎の数列)

$$ 1, 2, 6, 15, 31, 56, 92, \ldots $$

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(2013年6月7日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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