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第36回 シーズン4 エピソード6
いとしのフィボナッチ(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』として書籍化されています。

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一つずらした自分になる

「……だから、フィボナッチ数列というのはこういう数列になる。この数列を研究してみよう」

フィボナッチ数列

$$ 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, \ldots $$

ユーリ「うん」

「数列の研究ではまず——」

ユーリ「《階差数列を求める》んでしょ! ユーリ、やってみる!」

フィボナッチ数列の階差数列を求める

ユーリ「へえっ! おもしろい! フィボナッチ数列は——階差数列を求めると、一つずらした自分になるんだね!」

フィボナッチ数列の階差数列は、一つずらした自分になる

「確かにおもしろいな、その発見」

ユーリ「だよね! ……あれ? でもこれはあたりまえかにゃ?」

「あたりまえというと?」

ユーリ「だってさ、フィボナッチ数列って、 二つ足したら次になるんでしょ? だったら、差をとったら一つずらした自分になるのはあたりまえじゃん」

「まあ、あたりまえといえばあたりまえなんだけどね。簡単な式変形でわかるよ」

$$ \begin{align*} F_{n+2} & = F_{n} + F_{n+1} \qquad \REMTEXT{フィボナッチ数列の定義から} \\ F_{n+2} - F_{n+1} &= F_{n} \qquad \REMTEXT{移項した} \\ \end{align*} $$

ユーリ「これでなんで《わかるよ》って言えんの?」

「だって、ほら、左辺の $F_{n+2} - F_{n+1}$ という式は添字の部分をよく見ると、隣り合っている二つの項の差を取っていることがわかるよね。つまり階差を求めているわけだ」

ユーリ「ほー」

「そして右辺の $F_n$ という式はフィボナッチ数列の一般項、つまり第 $n$ 項だよね。 だから、この式 $F_{n+2} - F_{n+1} = F_n$ は《階差を取ると自分になる》ということを表現している」

ユーリ「してないよ」

「え?」

ユーリ「《階差を取ると自分になる》じゃなくて、《階差を取ると一つずらした自分になる》でしょ? だって、ほんとの階差なら $F_{n+2} - F_{n+1}$ じゃなくて、 $F_{n+1} - F_n$ のはずだもん」

「あ、そ、そうだね。その通りだ」

ユーリ「階差が自分になったら、 $2$ のべきじょうになっちゃうし」

「ユーリはよくそういうのを見つけるよね」

ユーリはめんどうくさがりだけれど、妙なところできっちりミスを指摘するんだよな……)

ユーリ「ねーお兄ちゃん。そんなことより、気になることあんだけど」

「なに?」

ユーリ「ユーリがね、一つずらした自分になるって言ったときにね、 お兄ちゃん、すぐに数式を出してきたじゃん?」

「ん? まあ、そうだね」

ユーリ「あれはなんで?」

「なんでと言われても困るけど……」

ユーリ「あのね、なんでお兄ちゃんはすぐに数式を出したの? 出そうと思ったの?」

「それは……きちんと答えるのは難しいな。 まず、数列について何か確かなことを言おうとしたら、 たいていの場合は、数式を使うしかないからだよ。 《フィボナッチ数列の階差数列は一つずらした自分》を確かめるために、 フィボナッチ数列の定義の式を持ち出してきたんだ」

ユーリ「……」

「ねえユーリ。お兄ちゃんはね、数学をするとき、 具体例を作って考え、数式を使って確かめるのが好きだ。 学校の勉強のときもそうだし、自分で好きな数学の本を読むときもそうだよ」

ユーリ「具体例を作って考え、数式を使って確かめる……」

「そう。だから、なんていうのかな——数学で数式を使うのは《いつもやってること》なんだよ。 だからユーリがフィボナッチ数列について見つけた発見も、 《数式を使って確かめよう》とすぐ思った。それは、いつもやってること、あたりまえのことなんだ」

ユーリ「ふーん……」

「水を飲むのに蛇口をひねるとか、ご飯を食べるのにお箸を持つとか、 数学で数式を使うっていうのはそのくらい自然なことかもしれないよ。 もちろん場合によっては手で水をすくって飲むことも、おにぎりを手で食べるということもあるけれどね」

ユーリ「へー……」

いつも大きく?

「それにしても、フィボナッチ数列の階差数列を取ると一つずらした自分になるっていう《ユーリの発見》は、 とてもおもしろい発見だと思うよ」

ユーリ「だよね。ところでさ、お兄ちゃん」

「なに?」

ユーリ「等差数列とか、等比数列とか、フィボナッチ数列とかいろいろ教えてくれたけど、 いつも大きくなるばっかりじゃん? 他の数列を考えてもいーよね」

「等差数列がいつも大きくなるとは限らないよ。この数列は等差数列だけど、 だんだん小さくなってる」

$$ 100, 99, 98, 97, 96, 95, \ldots $$

ユーリ「あ、そっか。この数列は $0$ で終わるの?」

「いやいや、そこから先はマイナスに突入する」

$$ 100, 99, 98, 97, 96, 95, \ldots, 2, 1, 0, -1, -2, -3, \ldots $$

ユーリ「あー、そりゃそっか」

「小さくなる等差数列は公差こうさがマイナスだってことだね。 それは階差数列を調べてみれば一目瞭然だ」

第 $1$ 項が $100$ で公差が $-1$ の等差数列

ユーリ「ふむふむ」

「等比数列でも小さくできる。公比を $1$ より小さな正の数にすればいい。たとえば $\frac{1}{2}$ とかね」

第 $1$ 項が $1$ で公比が $\frac12$ の等比数列

$$ 1, \frac12, \frac14, \frac18, \frac1{16}, \ldots $$

ユーリ「あ、そっか。それで小さくなるか。公比がマイナスでも小さくなっていくよね」

「いやいやだめだよ。公比がマイナスなら、小さくなったり大きくなったりする」

ユーリ「なんで……あそっか!』

「公比がマイナスだと、かけるたびに正の数と負の数が交互に反転するからね」

第 $1$ 項が $1$ で公比が $-\frac12$ の等比数列

$$ 1, -\frac12, \frac14, -\frac18, \frac1{16}, \ldots $$

ユーリ「そーか、そーだね……ねーお兄ちゃん。もっと変な風に大きくなったり小さくなったりする数列作ってよ!」

大きくなったり小さくなったり?

「変な風に大きくなったり小さくなったり?」

ユーリ「そーそー」

「なるほど……ええと、うん、それなら、こんな数列はどうかな」

$$ 1, 1, 2, 3, $$

ユーリ「へ? それはフィボナッチ数列じゃん。 フィボナッチ数列はずっと大きくなる数列だし」

「いやいや、もっと先がある」

$$ 1, 1, 2, 3, 5, 8, $$

ユーリ「だから、二つの項を足してできるのはフィボナッチ……」

「まだ先があるよ」

$$ 1, 1, 2, 3, 5, 8, 3, $$

ユーリ「$8$ の次が $3$ ?」

「もっと書こうか。この数列はどんな数列だと思う?」

問題(これはどんな数列?)

$$ 1, 1, 2, 3, 5, 8, 3, 1, 4, 5, 9, 4, 3, 7, \ldots $$

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(2013年7月5日)

書籍『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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