[logo] Web連載「数学ガールの秘密ノート」
Share

第75回 シーズン8 エピソード5
ゼロの足し算(前編)

$ \newcommand{\LOG}[1]{\log_{10}{#1}} \newcommand{\TEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} $

リビングにて

ここはの家のリビング。 いつものようにユーリが遊びに来ている。 は先日のミルカさんテトラちゃんとの対話をユーリに説明していた。 対数の話だ。

ユーリ「いーな、いーな! お兄ちゃんっていつもミルカさまとお話しできるんでしょ?」

「同じクラスだしね」

ユーリ「ミルカさまって、いろんな問題をばしばしっと解決しちゃうから……くううっ!」

「なに感極まってるんだよ」

中学生のユーリミルカさんにあこがれているのだ。

ユーリ「ところで、その《たいすー》って何?」

「がく。対数たいすうっていうのは、大きな数を扱うときに便利なものだよ。 ミルカさんが対数の話をしたのは、とてつもなく大きくなる指数関数の話をしていたからなんだ」

ユーリ「へー。あのね、テトラさんがグラフたくさん描いて、 ミルカさまが対数の話をしたのはわかったんだけど、カンジンのその対数が何かわかんないから、 いまいち盛り上がれない」

「いま、じゅうぶん盛り上がっていたじゃないか」

ユーリ「あれは別腹」

「わけがわからないよ」

ユーリ「とゆーわけで、お兄ちゃんには対数の詳しい解説が求められているのぢゃ」

対数

「じゃあね、簡単なクイズからね。『$10$ を何乗すると $100$ になりますか?』」

ユーリ「え?  $100$ は $10$ の $2$ 乗……でしょ? なら $2$ が答え?」

「そうだね、その通り」

$10$ を $2$ 乗すると $100$ になる

$$ 10^2 = 100 $$

ユーリ「それで?」

「では、次のクイズ。『$10$ を何乗すると $1000$ になりますか?』」

ユーリ「ねーお兄ちゃん、簡単すぎるよ、そのクイズ。 $3$ でしょ?」

「はい正解」

$10$ を $3$ 乗すると $1000$ になる

$$ 10^3 = 1000 $$

ユーリ「それで、対数の話は?」

「いまお兄ちゃんはユーリに『$10$ を何乗すると $100$ ?』とか『$10$ を何乗すると $1000$ ?』って訊いたよね」

ユーリ「うん。答えたよ」

「実はね、ユーリはいま《対数を求めた》んだよ」

ユーリ「は? 意味わかんない」

「つまりね、『$10$ を何乗すると $100$ になるか答えよ』という質問は『$100$ の対数を求めよ』という質問と同じ」

ユーリ「へ、へー……あ! じゃあさ、 $100$ の対数は $2$ なの?」

「そうだよ。そして、 $1000$ の対数は $3$ に等しい」

ユーリ「そーなんだ! なーんだ、簡単じゃん!」

《次のふたつは同じ話》

『$10$ を何乗すると $100$ になるか』

『$100$ の対数を求めよ』

《次のふたつは同じ話》

『$10$ を $2$ 乗すると $100$ に等しい』

『$100$ の対数は $2$ に等しい』

「簡単だよね」

ユーリ「うん、簡単」

「いまの話は、対数の基本中の基本。かなり大ざっぱだけどね」

ユーリ「大ざっぱって?」

「『$100$ の対数を求めよ』という質問は言葉が足りないっていうこと。 ちゃんというなら『$10$ をていとしたとき、 $100$ の対数を求めよ』という必要があるんだ」

ユーリ「ははーん。あれだね《何乗するか》のもとの数を決めなきゃダメってこと?」

「そうそう、ユーリ、さえてるな」

《次のふたつは同じ話》

『$10$ を何乗すると $100$ になるか』

『$10$ を底としたとき、 $100$ の対数を求めよ』

《次のふたつは同じ話》

『$10$ を $2$ 乗すると $100$ に等しい』

『$10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい』

ユーリ「ふふん。こんなの簡単じゃん!」

「定義の形でまとめておこうか」

対数の定義

$0$ より大きい数 $a$ に対して、

$$ 10^x = a $$

が成り立つとする。

このとき、 $x$ を《$10$ を底とする $a$ の対数》と呼ぶ。

ユーリ「ふんふん」

「じゃあ、クイズだよ。『$10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は?』」

ユーリ「一万?  $4$ だね」

「正解! 『$10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい』」

ユーリ「ふふん。要するにあれだよね。対数って《ゼロの個数》なんだね!」

「そうだね。 $10$ を底としたとき、 $10^n$ の形をしている数については、対数は《ゼロの個数》に等しくなる。その通り」

ユーリ「何にも難しいことないね」

「それじゃ、こんなクイズは? 『$10$ を底としたとき、 $1$ の対数は?』」

ユーリ「お、おおっ? ……そっか、わかった! $0$ だ!」

「はい、正解です。 $10^0 = 1$ だから、 $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ になる。 ユーリがさっき言ったように《ゼロの個数》としてもいいね。 $10$ を底としたとき……」

  • $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $10$ の対数は $1$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $1000$ の対数は $3$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $100000$ の対数は $5$ に等しい。
  • ……
  • $10$を底としたとき、$1\underbrace{000\cdots0}_{\REMTEXT{$n$}個}$の対数は$n$に等しい。

ユーリ「お兄ちゃん、わかったよ。ありがと!」

「いやいや、話はここから始まるんだけど」

ユーリ「へ?」

log

「いちいち《$10$ を底としたとき、この数の対数は何か》と言わずに済むように、数学者は記号を使っているよ」

ユーリ「記号?」

「そう。対数を表す記号。《$10$ を底としたとき、 $0$ より大きな数 $a$ の対数》のことを $\LOG{a}$ と書くんだよ。 $\log$ は《ログ》」

$10$ を底とする対数

$10$ を底としたとき、 $0$ より大きな数 $a$ の対数を、

$$ \LOG{a} $$

と書く。

ユーリ「ログ・エー……」

「うん、そうだよ」

ユーリ「ねえ、お兄ちゃん。さっきまで、対数ってすごく簡単だと思ってたんだけど、 何だか急に難しっぽくなった」

「$\LOG{a}$ のような数式が出てきたからだろ」

ユーリ「たぶん、そう」

「数式で少し遊べばすぐ慣れるんだけどね」

ユーリ「出たな数式マニア。その《数式で遊ぶ》って発想が驚きだよね」

「そうかなあ」

ユーリ「そーだよー」

「でも、お兄ちゃんが数式変形すると、ユーリいつも楽しそうじゃないか」

ユーリ「まー、そーなんだけど……そんで、ログ・エーでどう遊ぶの?」

「まずはクイズだよ。 $\LOG{100}$ の値はなーんだっ♪」

ユーリ「キャラに合わないから、そんな言い方しないほーがいいよ」

「では、 $\LOG{100}$ の値は?」

ユーリ「ログ・ひゃくの値……えーと、まちがっても笑わないでよ」

「笑わないよ」

ユーリ「……たぶん、 $2$ かにゃ?」

「はい正解。どうしてそう思った?」

ユーリ「$100$ のゼロの数だから、 $2$ かなって……」

「うん、それでいいよ。《$10$ を何乗したら $100$ になるか》という数が $\LOG{100}$ だからね」

ユーリ「ねー、じゃさー、 $\LOG{1000} = 3$ ってこと?」

「そうだよ、それでいい。さっきの表をもう一回書こうか」

  • $\LOG{1} = 0$($10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ に等しい)
  • $\LOG{10} = 1$ ($10$ を底としたとき、 $10$ の対数は $1$ に等しい)
  • $\LOG{100} = 2$ ($10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい)
  • $\LOG{1000} = 3$ ($10$ を底としたとき、 $1000$ の対数は $3$ に等しい)
  • $\LOG{10000} = 4$ ($10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい)
  • $\LOG{100000} = 5$ ($10$ を底としたとき、 $100000$ の対数は $5$ に等しい)
  • ……
  • $\LOG{1\underbrace{000\cdots0}_{\REMTEXT{$n$}個}} = n$ ($10$を底としたとき、$1\underbrace{000\cdots0}_{\REMTEXT{$n$}個}$の対数は$n$に等しい)

ユーリ「ふんふん。よくわかるよくわかる」

「$\LOG{a}$ という書き方は単なる約束だから、慣れてしまえば別に難しいことはないよね」

ユーリ「まーね。でもこの下の方にある小さい $10$ はうざいよね、いちいち」

「$\LOG{a}$ の ${}_{10}$ は底を表しているから必要なんだけど、 もしも底が何かはっきりしているんだったら、省略しても問題はないよ。 $\log{a}$ のようにね」

ユーリ「あ、すっきり」

「でも、慣れるまでは $\LOG{a}$ のように書いていた方がいいと思うよ」

ユーリ「へーい」

「ではここで問題です」

問題(対数が負になるとき)

次の式を満たす $x$ を求めよ。

$$ \LOG{x} = -1 $$

ユーリ「$-10$ でしょ?」

「え、えええ?」

無料で「試し読み」できるのはここまでです。 この続きをお読みになるには「読み放題プラン」へのご参加が必要です。

ひと月500円で「読み放題プラン」へご参加いただきますと、 420本すべての記事が読み放題になりますので、 ぜひ、ご参加ください。


参加済みの方/すぐに参加したい方はこちら

結城浩のメンバーシップで参加 結城浩のpixivFANBOXで参加

(2014年5月9日)

[icon]

結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

Twitter note 結城メルマガ Mastodon Bluesky Threads Home