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第94回 シーズン10 エピソード4
対象の対称な交換に好感(後編)

$ \newcommand{\SQRT}[1]{\sqrt{\mathstrut #1}} \newcommand{\GEQ}{\geqq} $

図書室

ここは高校の図書室。 いまは放課後。

テトラちゃんは村木先生の《研究課題》に取り組んでいた。 与えられた関数のようすを調べているうちに……

テトラ「それにしても、 《相加相乗平均の関係》が関数の最小値を求めるのに使えるなんて知りませんでした」

《相加相乗平均の関係》

$a \geqq 0, b \geqq 0$とする。このとき、 $$ \dfrac{a + b}{2} \geqq \sqrt{ab} $$ が成り立つ。等号成立は $a = b$ のとき。

「いや、そんなことはなくて、問題としてよく出てくるんだけどね…… それにしても $f(x) = x^2 + \dfrac{1}{x^2}$ にあてはめるのに気付かなかったのはちょっと恥ずかしかったな……」

テトラ「以前、先輩からこの《相加相乗平均の関係》の証明を教えていただきました」

「そうだっけ?」

テトラ「はい、そうです。 $\left(\SQRT a - \SQRT b\right)^2$ を展開するという、 とっても簡単な方法で」

「ああ、そうだったね」

$$ \begin{align*} \left(\SQRT a - \SQRT b\right)^2 &= \left(\SQRT a\right)^2 - 2\SQRT a \SQRT b + \left(\SQRT b\right)^2 && \text{展開した} \\ &= a - 2\SQRT a \SQRT b + \left(\SQRT b\right)^2 && \text{$\left(\SQRT a\right)^2 = a$だから} \\ &= a - 2\SQRT a \SQRT b + b && \text{$\left(\SQRT b\right)^2 = b$だから} \\ &= a - 2\SQRT{ab} + b && \text{$\SQRT a \SQRT b = \SQRT{ab}$だから} \\ \end{align*} $$

テトラ「それから、これで、 $\left(\SQRT a - \SQRT b\right)^2$ は実数を $2$ 乗したものなので、 必ず $0$ 以上になります。ということで……」

$$ \begin{align*} \left(\SQRT a - \SQRT b\right)^2 \GEQ 0 && \text{実数の$2$乗は$0$以上だから} \\ a - 2\SQRT{ab} + b \GEQ 0 && \text{上の結果を使って左辺を書き換えた} \\ a + b \GEQ 2\SQRT{ab} && \text{$-2\SQRT{ab}$を右辺に移項した} \\ \dfrac{a + b}{2} \GEQ \SQRT{ab} && \text{両辺を$2$で割った} \\ \end{align*} $$

「そうそう。 《相加相乗平均の関係》のときに出てくる $a \GEQ 0, b \GEQ 0$ という条件は どこに出てきたかわかる?」

テトラ「はい、それも先輩に教えていただきました。 $\SQRT{a} $や$ \SQRT{b}$と書いていて、 いまは実数で考えているのでルートの中の数は $0$ 以上という条件がいるんですよね?」

「そうだね。等号が成立するのは $\SQRT a - \SQRT b = 0$ のときだから、 $a = b$のとき」

テトラ「そうですね」

「改めて考えると、 《相加相乗平均の関係》で『等号が成立するとき』というのは大事だなあ。 それがあるから、さっきの $f(x) = x^2 + \dfrac{1}{x^2}$ が最小値を取るところが はっきりするわけだし」

テトラ「なるほどです。ちゃんと意味があるんですね。 先ほども言いましたけど、不等式の話と関数の話がつながるっておもしろいですね。 あたしは、なかなか気づけないと思いますけど……」

一般化

「ただ、 $f(x) = x^2 + \dfrac{1}{x^2}$ の最小を調べるのに 《相加相乗平均の関係》が使えるのは相乗平均の側が定数になるからだよ」

テトラ「どういうことでしょうか」

「$f(x) = x^2 + \dfrac{1}{x^2}$ で$a = x^2, b = \dfrac{1}{x^2}$とすると、 《相加相乗平均の関係》からこんな式がいえるよね」

$$ x^2 + \dfrac{1}{x^2} \GEQ 2 $$

テトラ「はい、そうですね」

「この不等式で右辺が $2$ という定数だから……つまり変数 $x$ を含んでいない式だから、 最小値が$2$といえる。もしも、$f(x) \GEQ \text{《$x$を含んだ式》}$という形だったら、等号成立のときに$f(x)$が最小値を取るなんていえないよね?」

テトラ「ええと……ああ、それはそうですね! 右辺も変化するかもしれないんですから!」

「テトラちゃんがさっき書いてくれた《相加相乗平均の関係》の証明の式と 同じように、 $\left(x - \dfrac{1}{x}\right)^2$ を考えてみるとはっきりするよ」

$$ \begin{align*} \left(x - \dfrac{1}{x}\right)^2 &= x^2 - 2 \cdot \underbrace{x \cdot \dfrac{1}{x}}_{\text{ここに注目}} + \dfrac{1}{x^2} \\ &= x^2 - 2 \cdot \underbrace{1}_\text{注目} + \dfrac{1}{x^2} \\ &= x^2 - 2 + \dfrac{1}{x^2} \\ \end{align*} $$

テトラ「なるほどです。 $x $と$ \dfrac{1}{x} $の積が出てくるので$ x$がちょうど消し合って $1$ になるんですね」

「そうそう。逆数との積。そこが定数を作り出しているところなんだね」

テトラ「よくわかります。 あ、ということは《ある数と逆数の差》を二乗すればいつでもそうなりますね。 たとえば $\left(\dfrac{A}{B} - \dfrac{B}{A}\right)^2$ のように……」

テトラちゃんはコクコクと頷きながら言った。

「そうだね。 $\dfrac{A^2}{B^2} + \dfrac{B^2}{A^2} \GEQ 2$ になるはずだよ……そうだ! 関数の話も《一般化》できるよ」

テトラ「一般化?」

「たとえば $F$ を$x$の関数だとすると、 $F^2 + \dfrac{1}{F^2}$という式を作って、 新しい $x$ の関数だと思うと、この関数の最小値は $2$ になるね!」

テトラ「なるほどです!」

「もっとも、 $F = \dfrac{1}{F}$ という値を取れば、ということだけれど」

分数関数

ミルカさんが図書室にやってきて、僕たちの前にカードを置いた。

ミルカ「村木先生のカードが来た」

ミルカさんのカード

$$ g(x) = \dfrac{x^2}{x^4 + 1} $$

「うん、ちょうどいま、僕たちもテトラちゃんがもらった村木先生のカードを見てたんだよ」

ミルカ「だと思った」

「え?」

ミルカ「私に来たカードが $f(x)$ じゃなくて $g(x)$ になっていたからね。 誰かのカードが $f(x)$ になっていると推測」

ミルカさんはそう言って眼鏡をくっと上げた。

テトラ「あたしのカードはこれでした」

テトラちゃんのカード

$$ f(x) = x^2 + \dfrac{1}{x^2} $$

ミルカ「ふむ」

テトラ「ミルカさんのカードの方は、どんな問題なんですか」

「テトラちゃんの関数 $f(x) = x^2 + \dfrac{1}{x^2}$ は和の形で、 ミルカさんの関数 $g(x) = \dfrac{x^2}{x^4 + 1}$ は商の形だね。分数関数だ」

ミルカ「まだ、気付かない?」

いつものようにミルカさんはクールに問いかけてくる。

は二枚のカードを眺めて……すぐに気付いた。

(あなたは、気付きました?)

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(2014年10月31日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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