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第158回 シーズン16 エピソード8
3を作って0にする(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/数を作ろう』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/数を作ろう』として書籍化されています。

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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僕の部屋

ユーリは《整数を $3$ で割った余り》が作る数についておしゃべりをしていた。

ユーリ「いろんな種類の数があるんだにゃあ。数から別の数を作ってく……」

「そうだね。 《整数》という数から、 $3$ で割った余りを考えることで《$3$ 角形の整数 $\{0,1,2\}$》を作った……ん? 待てよ、 ということは、もっとおもしろいものが作れそうな……」

ユーリ「なになに? どんなの?」

「うん、きっと《おもしろい数》が出てくるはずだよ。ちょっと待ってくれるかな、ユーリ」

ユーリ「やだ」

「え?」

ユーリ「待つの、やだ。お兄ちゃん、 いまから一人で、さっさかさっさか計算しようとしてるでしょ。 そーゆーのやめてほしーな。いっしょに計算しよーよー」

「……わかった。わかったよ。 じゃあ、いっしょに計算しよう。途中で行き詰まるかもしれないけどね」

ユーリ「ユーリが助けたげるよ」

「頼もしいな……」

余りを考える

ユーリ「そんで、お兄ちゃんは何を計算しようとしてたの?」

「さっきは《整数を $3$ で割った余り》を使って計算をしていたよね」

ユーリ「そだね。 $\{0,1,2\}$ でしょ?」

「整数を $3$ で割ると、その余りは $0,1,2$ のどれかになる。 そして、 $3$ で割った余りというのは、掛け算を使って表すことができるよね」

ユーリ「余りを、掛け算を使って表す……?」

「そうだよ。具体的にはこういう式のこと」

《整数を $3$ で割った余り》

整数 $n$ を $3$ で割ったときの余りを $r$ とすると、次の式が成り立つ。

$$ n = 3q + r $$

ただし、商 $q$ は整数。また、余り $r$ は非負整数で、 $3$ 以上ではない。

ユーリ「えーと。どゆこと?」

「$n$ という整数が与えられたとする。 その整数 $n$ を $3$ で割って余り $r$ を求めたときには、 $n = 3q + r$ が成り立つよ、ということ。 言い換えると、 $n$ から $3$ の倍数 $3q$ を引き算して、 その結果が $0,1,2$ になるようにする。それが余り $r$ だという話だけど」

ユーリ「うわ、何そのややこしー言い方!」

「でもそうだろ?」

ユーリ「$n$ から $3$ の倍数を引いて、残ったのが $0,1,2$ になってたら、それが余り。余りは $3$ 以上ではない。ま、そだね」

「たとえば、 $7$ を $3$ で割るとする。 $3$ の倍数として、 $3\times2 = 6$ を選んで、 $7 - 6 = 1$ を計算して余りが $1$ になる。それは、さっきの式、 $$ n = 3q + r $$ で、 $n = 7, q = 2, r = 1$ にしたことになる」

ユーリ「めちゃめちゃくどいけど、いーよ」

「いまは $3$ で割ったけど、一般化することも簡単にできる。 《$3$ で割る》代わりに《$m$ で割る》んだよ」

ユーリ「でたな。お兄ちゃん得意の一般化! でも $3$ を $m$ にするだけじゃん」

「そうだね」

《整数を $m$ で割った余り》

整数 $n$ を $0$ 以外の整数 $m$ で割ったときの余りを $r$ とすると、次の式が成り立つ。

$$ n = mq + r $$

ただし、商 $q$ は整数。 また、余り $r$ は非負整数で、 $|m|$ 以上ではない。

ユーリ「ほほー。いま、さりげなーく《$0$ 以外の》って条件付けたね、 $m$ に」

「さすがにめざといな。 そうしないと《ゼロ割》が起きてしまうからね」

ユーリ「ふふん」

「絶対値は見逃した?」

ユーリ「え?」

「ほら、『余り $r$ は非負整数で、 $|m|$ 以上ではない』というところ。 $m$ じゃなくて $|m|$ だよ。 こうしておくと、 $m < 0$ のときでも余りが定義できる」

ユーリ「なーるほど……って、それでいいの?」

「いいよ。たとえば、 $n = 8$ を $m = -3$ で割ることを考えてみよう。 そうすると、 $$ n = mq + r $$ を満たす数として、 $n = 8, m = -3, q = -2, r = 2$ が得られる。 だから、この定義だと、 $8$ を $-3$ で割った余りは $2$ になるね」

別の掛け算へ

ユーリ「ところで、お兄ちゃんがやりたかった計算って、これのこと? 余りをわざわざくどく書くの」

「いやいや、話はここから始まるんだ。 僕たちは《掛け算》を使って《余り》を求めるアイディアを式として整理した。さっきの、 $$ n = mq + r $$ という式のことだよ。 そこで今度は、まったく別の《掛け算》を使って、そこでの《余り》を考えてみよう」

ユーリ「なんですって? 別の掛け算……それはどんなものなんですか、センパイ!」

「テトラちゃんの真似しなくていいから」

ユーリ「ちぇ」

「そういう小芝居はいいよ。 僕たちがここから考えるのは《多項式の掛け算》だよ。 多項式の掛け算を使って、割り算と余りを考える」

ユーリ「多項式って、 $x + 3$ や $x^2 + 2x$ とか、そーゆーのだよね。 掛け算知ってるよ。 $2x + 1$ と $x + 3$ を掛けて、 $$ \begin{align*} (2x+1)(x + 3) & = 2x^2 + 6x + x + 3 \\ & = 2x^2 + 7x + 3 \end{align*} $$ みたいなの」

「そうだね。いまのユーリの計算では、 多項式の《加・減》と《乗》を使ったことになる」

ユーリ「《減》は使ってないけどね……そんで?」

「うん。多項式での乗算ができるということは、 さっきの《$m$ で割った余り》みたいに《多項式で割った余り》 を考えることができるんだ」

ユーリ「ほほー! 掛け算を使って余りを考える……」

「こんなふうに書いてみよう」

《多項式 $m(x)$ で割った余り》

多項式 $n(x)$ を $0$ 以外の多項式 $m(x)$ で割ったときの余りを多項式 $r(x)$ とすると、次の式が成り立つ。

$$ n(x) = m(x)q(x) + r(x) $$

ただし、商 $q(x)$ は多項式。 また、余り $r(x)$ は多項式で、 $r(x)$ の次数が $m(x)$ の次数以上ではない。

ユーリ「あっ、おもしろい! さっきと同じ形!」

整数 $n$ を整数 $m$ で割ったときの、余りの整数 $r$

$$ n = mq + r $$

多項式 $n(x)$ を多項式 $m(x)$ で割ったときの、余りの多項式 $r(x)$

$$ n(x) = m(x)q(x) + r(x) $$

「そうそう、こうやって式を並べてみると、確かに $r(x)$ は《余り》という感じがするよね。 整数では、余り $r$ に対して《$|m|$ 以上ではない》という条件が付いた。 多項式では、余り $r(x)$ の次数に対して《$m(x)$ の次数以上ではない》という条件が付く。 似てるよね」

ユーリ「次数って何だっけ。 $x^2 + x + 1$ が $2$ 次式とかゆーアレ?」

「そうだね。 $x^2 + x + 1$ が $2$ 次式とかいうソレ。多項式 $x^2 + x + 1$ の次数は $2$ だね。 $x^2 + x + 1$ という多項式には $x^2$ という $2$ 次の項と、 $x$ という $1$ 次の項と、 $1$ という $0$ 次の項があるから、 最高次数である $2$ 次をこの多項式の次数と決める。 ちゃんと書くと、 $$ a_nx^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_2x^2 + a_1x + a_0 $$ という多項式は $a_n \neq 0$ のとき《次数が $n$ である》と呼ぶことにするんだよ」

ユーリ「ダウト。それだと、 $0$ の次数が決まんないね」

「うん? ……おっと、確かにそうだな。 $0$ を多項式とすると、 $a_0 = 0$ になるけど、これだと最高次の係数が非ゼロにならないな。特別扱いが必要になるか……」

割り算実行

ユーリ「そんで、お兄ちゃんが計算したかったのは《多項式の余り》なの?」

「そうなんだけど、そうじゃない。 $x^2 + 1$ という特定の多項式で割った余りを計算したかったんだ」

ユーリ「へー」

「具体的な話をしよう。 さっき $7$ を $3$ で割って余りを $1$ にしたように、 具体的な多項式を $x^2 + 1$ で割ってみたい。たとえば、何がいいかな……たとえば、簡単な多項式で、 $$ x^3 + x^2 + x + 1 $$ を $x^2 + 1$ で割ってみることにしよう」

問題1

多項式 $x^3 + x^2 + x + 1$ を多項式 $x^2 + 1$ で割り、余りを求めよ。

ユーリ「ちょっと待って。これってどーやって計算すんの?」

「$7$ を $3$ で割ったときと同じだよ。 $7$ から $3$ の倍数を引いて、その結果が $0,1,2$ に入るようにする。 それと同じように、 $x^3 + x^2 + x + 1$ から《$x^2 + 1$ の倍数》を引くことになるね。 倍数といっても、数じゃなくて多項式だけど」

ユーリ「……」

「$x^2 + 1$ は $2$ 次式だから、次数は $2$ になる。 だから、 $x^3 + x^2 + x + 1$ から《$x^2 + 1$ の倍数》を引いて、 その結果が $1$ 次式になるようにしたいわけだね。余りは $Ax + B$ という形になる」

ユーリ「さっぱりわかんない」

「それじゃ、多項式の割り算を筆算にして考えよう。そのほうがわかりやすいから。こんなふうに」

$x^3 + x^2 + x + 1$ を $x^2 + 1$ で割ろう(1)

筆算の形にする。

ユーリ「あ、数の割り算と同じように筆算をするんだね」

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(2016年5月27日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/数を作ろう』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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