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第168回 シーズン17 エピソード8
組み立てペンタゴン(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/複素数の広がり』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/複素数の広がり』として書籍化されています。

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。

瑞谷先生:司書の先生。定時になると下校時間を宣言する。

$ \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\ABS}[1]{\bigl|\,#1\,\bigr|} \newcommand{\BAR}[1]{\overline{#1}} $

放課後の図書室

ここは高校の図書室。いまは放課後。 が宿題を片づけていると、いつものようにテトラちゃんがやってきた。

テトラ「先輩! 先日は正 $5$ 角形、楽しかったですねっ!」

「そうだね」

先日、テトラちゃんは正 $5$ 角形についてあれこれ考えて《定規とコンパス》で描く方法を導いたんだ(第165回参照

テトラ「実はですね、あれからいろんなことが気になって、 家で計算していたんですよ。テトラの話、聞いていただけますか?」

「もちろん、いいよ。どんな計算?」

こんなふうにして、今日も僕たちの数学トークが始まった。

テトラ「単位円に内接する正 $5$ 角形の頂点を考えるとき、 先輩は単位円の円周上にある点を $(\cos\theta,\sin\theta)$ と置きました」

「そうだね。それはすごく自然なことだと思うけど。 $\cos$ と $\sin$ の定義から」

テトラ「はい。あたしはそこからすぐに、 頂点に対応する $5$ 個の角度が $\frac{2\pi}{5}$ ずつ増えていることがわかりましたし。 だってひとまわり $2\pi$ を $5$ 等分するんですから。ですよね」

正 $5$ 角形の頂点

「うん。偏角だよね。複素数は一般に $r(\cos\theta + i\sin\theta)$ と表せるけど、このときの $\theta$ が偏角。 単位円の円周上なら、 $r = 1$ だけどね……で、そこから何か計算したの?」

テトラ「はい。先輩が話してくださった《正 $5$ 角形の頂点と $z^5 = 1$ の関係》のことをずっと考えていたんです。 この正 $5$ 角形の頂点を想像しながら……そこであたし、気付きました。 複素平面で頂点に対応している複素数が $z^5 = 1$ の解ということは、 $\cos\frac{2\pi}{5}+i\sin\frac{2\pi}{5}$ を $5$ 乗したら $1$ になるということですよね?」

「え? ああ、もちろん、その通りだよ。その話、しなかったっけ」

テトラ「すみません、違うんです。そのお話は聞いていました。 でも、あたしの中ではどうも納得していなかったようなんです。 家で、 $\zeta_0,\zeta_1,\zeta_2,\zeta_3,\zeta_4$ のことを考えていたら……」

「うん」

テトラ「……そうしたら《$5$ 乗したら $1$ に等しくなる $5$ 個の式》がぱああっ!と浮かんで来て、はわわっ!となって……」

$5$ 乗したら $1$ に等しくなる $5$ 個の式

$$ \begin{align*} \zeta_0^5 &= 1 \\ \zeta_1^5 &= 1 \\ \zeta_2^5 &= 1 \\ \zeta_3^5 &= 1 \\ \zeta_4^5 &= 1 \\ \end{align*} $$

「なるほど」

テトラ「それから、この $5$ 個の式も、確かにこれが成り立つ……とわかったんです」

$5$ 乗したら $1$ に等しくなる $5$ 個の式

$$ \begin{align*} \left(\cos0\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin0\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos1\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin1\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos2\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin2\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos3\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin3\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos4\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin4\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \end{align*} $$

「ああ、それは《腑に落ちた》ってやつだね! その気持ち、 よくわかるよ。前から見たことがある式のはずなのに『そういうことだったんだ!』 って突然気付くこと、あるから」

テトラ「あ、先輩もそうなんですか?」

「すごく基本的なところでは、 数式の《因数分解》と《展開》が逆の計算なんだ!と気付いたときとかね」

$$ \begin{array}{rcl} a^2 + 2ab + b^2 &\stackrel{\REMTEXT{因数分解}}{\longrightarrow}& (a+b)^2 \\ &\updownarrow& \\ a^2 + 2ab + b^2 &\stackrel{\REMTEXT{展開}}{\longleftarrow}& (a+b)^2 \\ \end{array} $$

テトラ「なるほど」

「それから $2$ 次方程式の《解と係数の関係》をはじめて習ったときもね。 《解と係数の関係》って、意味がぜんぜんわからなかったのを覚えてるよ。 式の変形は追えるんだけど意味がわからない。 でも、《解の公式》と《解と係数の関係》が似ていることをやってるって、気付いたときは感動したなあ」

  • 《解の公式》は、係数で《解》を表す。
  • 《解と係数の関係》は、係数で《解の和と積》を表す。

テトラ「な、なるほど……」

「さっきのテトラちゃんの $5$ 個の式はもちろん正しいけど、 $\theta = \frac{2\pi}{5}$ と置くとこうなるね」

$5$ 乗したら $1$ に等しくなる $5$ 個の式で、 $\theta = \frac{2\pi}{5}$ と置いた

$$ \begin{align*} (\cos0\theta+i\sin0\theta)^5 &= 1 \\ (\cos1\theta+i\sin1\theta)^5 &= 1 \\ (\cos2\theta+i\sin2\theta)^5 &= 1 \\ (\cos3\theta+i\sin3\theta)^5 &= 1 \\ (\cos4\theta+i\sin4\theta)^5 &= 1 \\ \end{align*} $$

テトラ「ああ、そうですね」

「ド・モアブルの公式を使って書き直すとこうなるかな」

ド・モアブルの公式

$$ (\cos\alpha + i \sin\alpha)^n = \cos n\alpha + i\sin n\alpha $$

$5$ 乗したら $1$ に等しくなる $5$ 個の式を、ド・モアブルの公式を使って変形した

$$ \begin{align*} \cos5\cdot0\theta+i\sin5\cdot0\theta &= 1 \\ \cos5\cdot1\theta+i\sin5\cdot1\theta &= 1 \\ \cos5\cdot2\theta+i\sin5\cdot2\theta &= 1 \\ \cos5\cdot3\theta+i\sin5\cdot3\theta &= 1 \\ \cos5\cdot4\theta+i\sin5\cdot4\theta &= 1 \\ \end{align*} $$

「そして、ここまでくればあたりまえ。だって、 $\theta = \frac{2\pi}{5}$ を $5$ 倍したら $2\pi$ になる。 $2\pi$ の整数倍だと $\cos$ は $1$ で、 $\sin$ は $0$ になるから、こうなるよね}

$5\theta = 2\pi$ を使った

$$ \begin{align*} \cos0\cdot2\pi+i\sin0\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos1\cdot2\pi+i\sin1\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos2\cdot2\pi+i\sin2\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos3\cdot2\pi+i\sin3\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos4\cdot2\pi+i\sin4\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \end{align*} $$

テトラ「あ、はい……そ、それでですね。あの……あたしが考えていたことに戻るんですが」

「あ、そうだ。ごめんごめん。テトラ先生が話していたんだった。どうぞどうぞ」

テトラ「単位円に内接する正 $5$ 角形の頂点 $\zeta_0,\zeta_1,\zeta_2,\zeta_3,\zeta_4$ は どれも $5$ 乗すると $1$ になるんですから、 $5$ 回分ジャンプすると、ぜんぶ $1$ にたどり着くんですよ!  たとえば、 $\zeta_1$ の場合は、反時計回りにぐるっと回って $1$ にたどり着きます」

$\zeta_1$ を $5$ 回ジャンプさせる($\zeta_1$ を繰り返し掛ける)

「なるほどね。ええと、 $\zeta_1$ を $5$ 回分ジャンプするというのは、 $\zeta_1^1,\zeta_1^2,\zeta_1^3,\zeta_1^4,\zeta_1^5$ を複素平面でたどるという意味かな。 ちゃんというと、 $\zeta_0 = 1$ から始めて、 $\zeta_1$ を繰り返し掛けていくと…… $$ \begin{align*} \zeta_0\zeta_1 &= \zeta_1 \\ \zeta_1\zeta_1 &= \zeta_2 \\ \zeta_2\zeta_1 &= \zeta_3 \\ \zeta_3\zeta_1 &= \zeta_4 \\ \zeta_4\zeta_1 &= \zeta_0 \\ \end{align*} $$ ……のようになるということだよね」

テトラ「はい。そして、 $\zeta_2$ も同じように $5$ 回ジャンプで $1$ に着きます」

$\zeta_2$ を $5$ 回ジャンプさせる($\zeta_2$ を繰り返し掛ける)

$$ \begin{align*} \zeta_0\zeta_2 &= \zeta_2 \\ \zeta_2\zeta_2 &= \zeta_4 \\ \zeta_4\zeta_2 &= \zeta_1 \\ \zeta_1\zeta_2 &= \zeta_3 \\ \zeta_3\zeta_2 &= \zeta_0 \\ \end{align*} $$

「……」

テトラ「$\zeta_3$ も同じように $5$ 回ジャンプで $1$ に着くんですが、これは $\zeta_2$ の逆回りで……」

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(2016年8月26日)

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書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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