[logo] Web連載「数学ガールの秘密ノート」
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第214回 シーズン22 エピソード4
テンテンにはさまれて(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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ユーリは、 $$ \frac17 = 0.142857142857\cdots = 0.\dot14285\dot7 $$ という数を使って楽しくおしゃべりをしている(第213回参照)。

ユーリ「そーいえば、エジプトもこれだったね」

「これって?」

ユーリ「$\frac17$ みたいな分数を考えるんじゃなかったっけ」

「単位分数のことだね。 分子が $1$ になっている分数の和の形で数を表した」

ユーリ「それそれ。《いにしえの数学》イベントで見た(第182回参照)」

「古代エジプトだと、分子が $1$ になっている分数と、 それから $\frac23$ が基本的な数として使われたんだね。 たとえば、 $\frac{3}{5}$ という数を表すときには、 $$ \frac{1}{3} + \frac{1}{5} + \frac{1}{15} $$ に相当する書き方をする」

ユーリ「クラゲみたいなの」

「クラゲというか、雲というか……」

古代エジプトの文字(ヒエログリフ)で書いた $\frac{1}{3} + \frac{1}{5} + \frac{1}{15}$

ユーリ「めんどいよね。 だって $\frac{3}{5}$ って書けばいいだけなのに、 わざわざ並べて足し算にするなんて」

「古代エジプトの人はそれで慣れていたのかもしれないけどね。 数の表記法には一長一短あるから」

ユーリ「ひょうきほう? いっちょういったん?」

「《数の表記法》、つまり《数を書き表すやり方》によって、 便利な場合と不便な場合が変わるってこと」

ユーリ「ちょっと何言ってるかわかんない」

「たとえば、さっきの話に出てきた $\frac17$ は分数で書いたけど、 小数で書くこともできる。 $\frac17$ と書く代わりに、 $0.\dot14285\dot7$ と書く」

$$ \frac17 = 0.\dot14285\dot7 $$

ユーリ「そだね」

「いまの二つの書き表し方、つまり表記法は違う。 でも、その二つはイコールで結べる。 $\frac17$ と $0.\dot14285\dot7$ とは、異なる表記法で書かれているけれど、 値は等しいんだよということを表している」

ユーリ「まわりくどい言い方」

「でも、大事なことなんだよ。ある数を書き表したいと思ったときに、 分数の形で表すなら $\frac17$ と書くし、 小数の形で表すなら $0.\dot14285\dot7$ と書く。 古代エジプト人がヒエログリフで表すなら $7$ を表すヒエログリフの上に雲みたいなものを描いたかもしれない。 でも、表記法が違うだけで値は等しい」

ユーリ「それで? いっちょういったん」

「うん。 $\frac17$ の形で書くと、 $1$ を $7$ で割った値だなということがわかりやすい。 でも、ほら、さっき調べたような $142857$ の繰り返しが出てくるというパターンを調べるは $\frac17$ という表記法ではわかりにくい」

ユーリ「ふむふむ。パターンね」

「それから、大きさを比べるときも考えてみよう。 $\frac{7}{13}$ と $\frac{11}{21}$ ではどっちが大きい?」

クイズ1(どちらが大きいか?)

$$ \frac{7}{13} \qquad \REMTEXT{と} \qquad \frac{11}{21} $$

ユーリ「えっと?」

「こういう分数同士だと、パッと見て大きさの比較は難しい。 でも、小数で表されていれば、 $0.\dot53846\dot1$ と $0.\dot52380\dot9$ のどちらが大きいかはすぐわかる」

クイズ2(どちらが大きいか?)

$$ 0.\dot53846\dot1 \qquad \REMTEXT{と} \qquad 0.\dot52380\dot9 $$

ユーリ「$0.\dot53846\dot1$ の方が大きい! だって、 左は $0.53\cdots$ だけど、右は $0.52\cdots$ だから」

「そうなんだ。小数で表すと、二つの数の大小関係はいつもわかりやすい。 それに比べて分数だと大きさの比較が難しいことがある」

ユーリ「なるほどー。あ、でも、簡単なときもあるよ」

「そうだね。分数の大小比較がいつも難しいとは限らない。分母が等しかったり、 分子が等しかったりすれば比較は簡単」

ユーリ「分母は大きくて分子が小さいとかね」

「そういうこと」

ユーリ「単位分数同士なら、分子がいつも $1$ だから比較は楽だね」

「なるほど。確かにそれはいえるな。 ともかく、値と表記法の区別は大事だし、 表記法ごとに便利な点は違うというのは納得できた?」

ユーリ「ナットク、ナットク」

「そういえば、小学校のときに《分数を小数に直す計算》や《小数を分数に直す計算》をたくさんやったよね」

ユーリ「やったやった。超めんどいの」

「あれは、《数のは変えずに、表記法を変える》という練習だったんだね。 分数には分数の、小数には小数の便利なところがある。 だから、自分の都合がいい表記法に書き換えるのは大事なこと。 でも、書き換える途中で値を変えちゃだめだよね。 さっきのクイズ1,2も同じ問題なんだけど、表記法が違うだけ。 $$ \begin{align*} \frac{7}{13} &= 0.\dot53846\dot1 \\ \frac{11}{21} &= 0.\dot52380\dot9 \\ \end{align*} $$ だから、 $$ \frac{7}{13} = 0.\dot53846\dot1 > 0.\dot52380\dot9 = \frac{11}{21} $$ ということ」

ユーリ「ふむふむ」

クイズ1とクイズ2の答え

$$ \frac{7}{13} = 0.\dot53846\dot1 > 0.\dot52380\dot9 = \frac{11}{21} $$

逆は?

ユーリ「あれ? お兄ちゃん。逆は?」

「《ならば》は出てきてないよ」

ユーリ「その逆じゃなくて、反対は?」

「ねえ、ユーリ。テレパシーで会話するのはやめようよ。 何の話か順序立てて言ってくれないとわからないよ」

ユーリ「察し悪いのう。あのね、 $\frac{1}{7}$ を小数で表すと、 $$ \frac17 = 0.\dot14285\dot7 $$ になるんでしょ?」

「そうだね。もちろん、 $0.142857142857\cdots$ と表してもいいけど。それで?」

ユーリ「小数に直すとどうなるかは、 $1$ を $7$ で割ればわかるじゃん?」

$\frac17$ を小数に直す

「そうだね」

ユーリ「だから、その逆は?  $0.\dot14285\dot7$ を見たとき、 $\frac17$ ってすぐわかる? 小学校で習ったっけ?」

「なるほど! 《$0.\dot14285\dot7$ という小数を分数に直す》にはどうするかという問題だね」

ユーリ「そーゆーことじゃ。 あっ、もちろん $\frac17$ になるのはもう知ってるからわかるよ。 でもたとえば、適当に、 $$ 0.123123123\cdots = 0.\dot12\dot3 $$ みたいな小数を作ったら、これって分数にできるの?  $0.123$ じゃないくて、 $0.\dot12\dot3$ だよ? お兄ちゃん、暗記してる?」

「いや、暗記はしてないし、小学校で習った覚えもないけど、 これは考えれば解ける問題だよ」

問題(無限小数を分数に直す)

次の無限小数を分数で表せ。 $$ 0.123123123\cdots = 0.\dot12\dot3 $$

ユーリ「《あなたも、考えてみましょう!》のカンバン、出ちゃった」

「メタ発言自重……考え方は難しくないと思うけど」

ユーリ「うーん。 $0.123$ だったら楽なんだけど」

「それだよ、ユーリ。ポリヤの問いかけ《似た問題を知らないか》だね。 ユーリは $0.\dot12\dot3$ を分数に直す方法は知らない。でも、 $0.123$ を分数に直す方法という似た問題なら解ける」

ユーリ「だって、 $$ 0.123 = \frac{123}{1000} $$ でしょ? 約分はできない」

「そうだね。いまは約分は気にしなくていいよ。ともかく、 $0.123$ はすぐに分数にできた。でも $0.\dot12\dot3$ は分数にできない。 その二つは何が違うんだろう」

ユーリ「$0.\dot12\dot3$ は $123$ が無限に続いているから。 $\frac{123}{1000}$ だけじゃ足りないでしょ?」

「……」

ユーリ「むむ? さては、その無言は《ヒントの無言》だにゃ? お兄ちゃんの目が語ってる!  『そこがポイントだよ。じっくり考えてごらん、かわいいユーリ』って語ってる!」

「《求めたいものは何か》」

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(2017年12月1日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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