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第320回 シーズン32 エピソード10
ふれあう三角関数:タンジェントと語り合う(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

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放課後の図書室にて

ここは高校の図書室。いまは放課後。

そろそろ帰ろうかなと思ったところに、後輩の元気少女テトラちゃんがやってきた。

テトラ「あっ、先輩! ちょうどいいところに。村木先生から《カード》がやってきましたよ!」

村木先生というのは、僕たちにときどき数学の問題を出す数学教師だ。

数学の問題を出すというか、思わせぶりな《カード》を渡してくることが多いかな。

そこには数学の問題が書かれていることもあるし、単に数式が書かれていることもある。何も書かれていないことすらあった。

僕たちはその《カード》をきっかけにして自由に考え、ときに問題を自分で作って、解く。そんなふうにして数学を楽しんでいるんだ。

……さてさて今日は?

「新作の《カード》は問題が書かれてた?」

テトラ「え、ええとですね。問題とはいえませんね」

「だったら意味ありげな数式かな?」

テトラ「というわけでもないです」

「何も書かれていないパターン? 何だか今日のテトラちゃんは意味ありげだね」

テトラ「そういうわけでもないんですが、まるで……トランプのようなカードなんです」

「トランプって?」

テトラ「たとえば、これが1枚目にいただいた《カード》です。コバルト1ですね」

「コバルトワン」

《カード》コバルト1

テトラちゃんが机の上に置いた《カード》は確かにトランプに似ていた。

ハートのエースや、スペードの3じゃなくて……コバルト1?

テトラ「コバルトというのは、たぶん cobalt blue という色を意味してるんだと思います」

「なるほど、コバルトブルーね……まあ、色はいいとして、この絵柄は何を表しているんだろう。白と青の並び」

テトラ「左右対称になってます」

「裏は……裏には何も描かれてない。ちょっと待ってテトラちゃん。『1枚目』って言ってたけど、コバルトツーもあるの?」

テトラ「はい、そうです。これがコバルト2ですね」

《カード》コバルト2

「ちょっと青の位置が違うね。広がってる。この2枚から何かを考えるのは無茶だと思うんだけど、もしかして、コバルトスリーもあるの?」

テトラ「はい、実はコバルト1からコバルト5までいただいてきました。 もっと作れるけれど図案的に難しいのでコバルト5までにしたんだそうです」

コバルト1からコバルト5

「もっと作れるけど図案的に難しい……村木先生って、思わせぶりなところに無駄に力を注ぐときあるよね。まあ、ともかくこの図案は規則的。数が大きくなると広がっていく。全部で11個の並ぶ場所があって、そのうち2個が青で残りの9個が白と」

テトラ「はい。コバルトの方はそうなってますね」

「コバルト以外もあるの?」

テトラ「はい。シルバーもあります。これがシルバー1ですね」

《カード》シルバー1

「シルバーだから銀色ってことか。実際は灰色だけど」

テトラ「こちらもシルバー1からシルバー5まであります」

シルバー1からシルバー5

「これで全部? ダイヤモンド4とかタンザナイト5とか出てこない?」

テトラ「これで全部です。結局あたしがいただいたのは全部で10枚の《カード》になります。コバルトが5枚、シルバーも5枚。 《コバルトとシルバー》だそうです」

《コバルトとシルバー》

はしばらくこの10枚の《カード》を見ながら、考える。

何かおもしろいことはないか、と考える。

10枚の《カード》は、いかにも意味ありげで、それっぽい規則性もある。

でも……

「でも、これだけだと何とでも解釈できちゃうよね」

テトラ「ですよね……でも、あたしがいただいたのはこの10枚だけなんです」

僕たちが考えあぐんでいるところに、赤いノートブック・コンピュータを抱えたリサがやってきた。

いつもなら、無言のまま一人で離れた場所に座る彼女だけれど、今日は僕たちが話しているところにまっすぐやってきた。

登場人物紹介(追加)

リサ:自在にプログラミングを行う無口な高校生。赤い髪の《コンピュータ少女》。

《プリント》

リサ「村木先生から《プリント》」

リサテトラちゃんに紙を1枚渡す。

テトラ「あ、あたしですか? すみません……でもこれが《プリント》?」

《プリント》

「おっ、数式っぽいものがやってきたぞ! 村木先生はこれもテトラちゃんに渡そうとしてたんだね」

テトラ「そうかもしれません……これは計算でしょうか」

「そうだね。右辺を計算すれば左辺になるってことかな」

テトラ「あっ、リサちゃん! 待ってください。リサちゃんはこれ、何だと思いますか?」

リサ「『ちゃん』は不要。ビットパターン?(咳)」

リサはその一言を残していつもの席に向かい、コンピュータを開いた。

テトラ「ビットパターン……」

「ああ、なるほど。確かにビットパターンかも。 《カード》の絵柄を《0と1の並び》に見立てる。 たとえば《白は0》で《青や銀は1》とか?」

テトラ「コバルト1だったら00001010000ということでしょうか」

コバルト1は00001010000になる?

「それはありえそうだよね。シルバー3なら0011111100になる。そして、すべての《カード》は二進法で表された数と考える」

シルバー3は0011111100かな?

テトラ「はいはい……ええと、二進法とすると、こうですね」

《コバルトとシルバー》を二進法で表された数と見なす

「たとえばコバルト1を二進法の00001010000だとして、それを十進法で表せば80ということになるね。1が立っているところが $2^6, 2^4$ の二カ所だけだから」

テトラ「ああ、だったら話は簡単ですね。《カード》は数を表していて、リサちゃんの持ってきてくれた《プリント》はその計算式を表している……のかも?」

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(2021年3月12日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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