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第353回 シーズン36 エピソード3
多角形と面積が等しい正方形を作る(前編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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等積変形

ユーリは、三角形と等しい面積を持つ正方形を作図する問題に取り組んでいた(第351回参照)。

三角形から長方形を作るのはすぐにでき、 ようやく長方形から正方形を作る作図もできたところ(第352回参照)。

ユーリ「あー、楽しかったね! これで、正方形まで完成!」

「そうだね。手順までちゃんと考えるのは意外に楽しかったなあ。三角形は、同じ面積を持つ正方形に等積変形できる」

ユーリ「とーせきへんけい?」

「等しい面積を持つような別の図形に変形してるから、等積変形だよね」

ユーリ「そーだけど、さっきの作図、あんま等積変形って感じはしないよね(第352回参照)。 三角形から長方形作るところは等積変形かもしんないけど、 長方形から正方形作るところは『はいっ、今日はですね、長方形に面積が等しい正方形を改めて作ってみたいと思いまーす』じゃない?」

「なるほど」

ユーリ「ほらほら、こーゆーの。 平行線があって、三角形のあたまをスーッとすべらせたら、面積等しい。こーゆーのだと等積変形って感じする」

三角形の等積変形の例

三角形の一辺に平行な直線に沿って頂点を移動して作った新たな三角形は、 もとの三角形と面積が等しい。

「この二つの三角形は、底辺の長さが共通で、平行線だから高さも等しい。 三角形の面積は底辺の長さと高さで決まるから、 底辺の長さと高さの両方が等しければ、面積も等しくなる。 確かにこれはとてもよく使う等積変形だね」

ユーリ「そんで? 三角形を正方形にするって一般化できんの?」

「おっ?」

一般化

ユーリ「三角形から正方形作ったんだから、四角形から正方形も作れる?」

「おお、確かに一般化だ。すごいなあ、ユーリ」

ユーリ「お兄ちゃん、しょっちゅう言ってるじゃん。『一般化したらどうなるか?』って」

「そうだね。 三角形と等しい面積を持つ正方形が作れた。 では、四角形と等しい面積を持つ正方形が作れるか。 さらには……」

  • 三角形と等しい面積を持つ正方形を作図できますか。
  • 四角形と等しい面積を持つ正方形を作図できますか。
  • 五角形と等しい面積を持つ正方形を作図できますか。
  • ……
  • N角形と等しい面積を持つ正方形を作図できますか。
  • ……

ユーリ「そだね」

「つまり、《頂点の数》をNという変数にして一般化したことになる。 確かにこれは《変数の導入による一般化》だね。 多角形と等しい面積を持つ正方形を作図する方法を考える問題ができた。 これは楽しそうだし、いかにもできそうだよ」

ユーリ「考えようよ!」

「そうだね。 正方形はそのままで正方形だし、長方形はさっきできた(第352回参照)。 だから、正方形や長方形のように特別な条件を持つ四角形じゃなくて、 一般の四角形と等しい面積を持つ正方形を作る方法を考えよう」

  • 正方形とは、《すべての角の大きさが等しい》かつ《すべての辺の長さが等しい》という条件がついた四角形のこと。
  • 長方形とは、《すべての角の大きさが等しい》という条件が付いた四角形のこと。
  • 一般の四角形とは、条件が付いていることを特に仮定しない四角形のこと。条件が付いていても構わないけれど、議論を進める上で、その条件は使わない。

ユーリ「たとえば、こーゆー四角形で考えるんでしょ?」

「そうだね。一般の四角形で考えるときには、どの二辺の長さも等しくならないように、 どの二角の大きさも等しくならないように、そして直角のような特別な角にならないように描くね」

問題

四角形と等しい面積を持つ正方形を作図する方法を考えてください。

四角形を変形する

「さて、ではどこから考えるか……」

ユーリ「そらやっぱり、切るしかないんじゃない?」

四角形を切ってみる?

「いやあ、それはまずそうだよね。切ってどうするんだろう」

ユーリ「そっか……適当に切っても何もできないにゃあ。 切ったところで裏返すと平行四辺形に!……なるわけないか」

「なるとは限らないね」

切ったところで裏返してみる?

ユーリ「ふみゅー」

「切ったとして、どうなったらうれしいんだろう」

ユーリ「ほら、三角形から長方形作ったみたいに、切って並べ替えたら、面積が求めやすい形が作れて……」

「面積が求めやすい形……あっ!」

ユーリ「あっ、わかった! 等積変形が使えるじゃん! ユーリが描く!」

ユーリにペンを奪われてしまった。

「いやいや、僕が先に思いついたんだけどなあ」

ユーリ「同時じゃん! 大人げないこと言わないの。ね、いい子だから!」

「どっちだよ」

ユーリ「はい、でーきた! 平行線描いて、三角形のあたまをすすすすっと等積変形すれば、四角形は三角形にできる!」

解答3

「そうだね。 三角形ができるように対角線を描き、できた三角形の頂点を通って対角線と平行な直線を描き、四角形の一辺を延長した直線と平行線の交点を取る。 そうすれば、四角形と等しい面積の三角形が作れたことになる」

ユーリ「ふふん」

「僕がユーリと同時に思い付いたのも、同じ方法だよ……」

ユーリ「これで、四角形と同じ面積を持つ三角形が作れることがわかった! 三角形ができちゃえば、もう正方形も作れる」

「そうだね。四角形→三角形ができた。三角形に帰着できたわけだ。 三角形→長方形→正方形はもうわかっているから、 これで、どんな四角形が与えられても、それと等しい面積を持つ正方形が作図できるといえる」

 四角形 → 三角形 → 長方形 → 正方形

ユーリ「最初の四角形は、へこんでても大丈夫だよ」

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(2022年4月15日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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