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第372回 シーズン38 エピソード2
テコの原理(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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僕の部屋

ユーリは、ネジを回すドライバーの話題からテコの原理についておしゃべりをしていた(第371回参照)。

テコの原理

テコの原理

曲がったり折れたりしない長い棒があり、図のように支点してんを中心にして回転するようになっている。

図にあるように、

  • 支点からの距離 $L_1$ の点に大きさ $F_1$ の力を掛け、
  • 支点からの距離 $L_2$ の点に大きさ $F_2$ の力を掛ける。
棒が回り出さないとしたら、 $$ F_1 L_1 = F_2 L_2 $$ という関係が成り立つ。

この関係をテコの原理という。

ユーリ「ドライバーでネジを回すのがテコの原理に関係するの?」

「そうそう。ドライバーの話だった。 いま話したテコの原理では、支点を中心にして長い棒が回転するかどうかに注目していた。 ドライバーも同じだよ。ドライバーでネジを回す。そのときにドライバーが回転するかどうかに注目しているわけだから」

ドライバーの回転

※「いらすとや」さんの プラスドライバーのイラストをもとにしています。

ユーリ「そっか……ドライバーのお尻から見るんだね」

「まあそうだね。ネジを固く締めるときには、手で力を掛けることになる。 そしてネジが固くて回りにくいというときには、この図でいうと力 $F_1$ が大きいことになるし、 手で掛ける力は $F_2$ に相当する。 ネジの力 $F_1$ というのは摩擦力に由来するかな。ネジの先と、ネジが入り込んでいる先の摩擦力。 まあ、それを言い出すとドライバーを回す力 $F_2$ も摩擦力だけど、人間の手とドライバーの持ち手との間の摩擦力」

ユーリ「ナットク、納得」

「だから、ドライバーの持ち手を太くするというのは、この図でいうところの $L_2$ を長くすることに相当する。 そうすれば、力 $F_2$ が小さくても固いネジを回せることになる」

ユーリ「ん、ちょっと待って。テコのときは一点に力を掛けるけど、ドライバーのときは手でくるむよね? だとしたらテコとはちょっと違わない?」

「うん。実際にはこのテコが無数にある感じかな」

ドライバーに隠れている無数のテコ

ユーリ「ぎゃあ!……にゃるほど」

「テコの原理はテコやドライバーだけじゃなくて、いろんなところに出てくるよ。 どこかを中心にして回転するものが出てくるときはテコの原理が顔を出すことが多い。 自転車のハンドルとかね」

自転車のハンドル

※「いらすとや」さんの イラストをもとにしています。

ユーリ「確かに。ハンドルなかったら大変そう」

「ドアもそうだし、ドアを開けるときに回すドアノブもそうだね」

ユーリ「ドアノブを回すときに小さい力で済む」

ドアノブ

※「いらすとや」さんの ドアノブのイラストをもとにしています。

ハサミもそうかな」

ユーリ「学校にある裁断機も!」

「ああ、そうだね。裁断機は小さな力で紙を切ることができる。これもテコの原理からいえる」

ユーリ「ちょっと待って……釣り竿ってヤバくない?」

「釣り竿? 何がヤバいんだろう」

ユーリ「だって、長い方を魚が引っ張ってるよね。人間負けるじゃん!」

釣り竿

「確かに!……実際の釣りでどうしているかは知らないけど、 釣り竿の端が固定されている支点だと考えると、支点から離れたところを持った方が小さな力で済みそうだね。 この図でいうと $L_2$ を大きくするんだ。テコの原理から、 $L_2$ を二倍にすれば、 $F_2$ は半分で済む」

ユーリ「なーる」

「でも釣り竿はしなるし、魚が引っ張る力の向きもあるから、実際に計算するのはそんなに単純じゃないと思うけど」

ユーリ「力の向きって?」

「力には《大きさ》だけじゃなくて《向き》もあるよね。 どちらの向きに、どれだけの大きさで力を掛けるかで話は変わってくる。 テコの原理の図では長い棒に垂直な向きで考えていたから、 $F_1$ と$F_2$という大きさだけで話をしてたけど、 本当のことをいえば、力の向きも考える必要がある」

ユーリ「……」

「たとえば、こんなふうに糸で斜めに引っ張って力を掛けたとすると、 力の大きさすべてが回転に寄与するわけじゃない」

ユーリ「キヨスルってなに?」

斜めに力を掛けた

「力が回転に寄与するっていうのは、力が回転に影響を与えるという意味。 回転に寄与する力は、棒に垂直な力の成分だけだから」

ユーリ「むむ……?」

「え、そんなに難しい話じゃないと思うんだけどな」

ユーリ「違うの。ちょっと待って。思い出してるの!」

「了解、了解」

ユーリは何かをしばらく考えてから話し出した。

ユーリ「お兄ちゃん、力の話をしてくれたことがある」

「うん、何回か話したかな」

ユーリ「そのときに、力には《向き》と《大きさ》があるって言ってた」

「力はベクトルだからね」

ユーリ「そーそー、ベクトルの話。そんときにね、 働いている力をぜんぶ見つければいいって言ってなかった?」

「よく覚えてるなあ! うん、言ったよ。 力学では、注目しているものに働いている力をぜんぶ見つけることがすごく大事。 働いている力がわかればニュートンの運動方程式が使えるからね」

ユーリ「……」

「ボールを投げたときに放物線を描いて飛ぶ話のときも、 力を成分に分ける話をしたよね。 ベクトルだから成分に分けて考えて、 成分ごとに足し合わせることもできる」

ユーリ「うーん……」

「ユーリは何に引っかかってるんだろう」

ユーリ「ユーリは何に引っかかってるんだと思う? ユーリもわかんなくなった」

「ああ、そういうこと、あるよね。何か、気になることがあるんだよね」

ユーリ「ちょっと待って……」

【CM】

テトラ「はい、ちょっとここでCM入ります! ユーリちゃんと先輩の楽しい対話で学ぶ『ベクトルの真実しんじつはこちらです。 真美まみちゃんじゃありませんよ!」

テトラ「それから、力を成分に分けるお話や、ニュートンの運動方程式のお話は『ニュートン力学』ですね!」

「……」

ユーリ「……あのね、テコでもドライバーでも釣り竿でもいいけど、回転のことを考えたじゃん? でも、ボールを投げて放物線を描くのを考えたときは、 回転のことを考えなかった」

「うん、そうだね」

ユーリ「力に《向き》と《大きさ》があるのはいーけど、いま話してたテコの原理だと、 力の《向き》と《大きさ》だけじゃダメって言ってない? 支点からの距離も大事だから考えろって言ってない?」

「言ってるね。力 $F_1,F_2$ だけじゃなくて、支点からの距離 $L_1,L_2$ も考えないといけない」

ユーリ「だよね! でも、ボールを投げるときに掛かる力のときは、 そんなの考えなかったよ。 どーして、何かを考えたり考えなかったりするの?」

「いやあ、ユーリはすごいな!」

ユーリ「ねえ、なんで? なんで、毎回考えなきゃいけないことが変わるの? どーして、バシッと一発で決まんないの? わけわかんない!」

「ユーリのその疑問はめちゃめちゃ大事だよ!」

ユーリ「それで?」

「僕たちはいま力学の話をしているんだけど、 対象を質点しつてんと見なしているか、 剛体ごうたいと見なしているかが違う。 だから、考えることが変わったように感じるんだ」

ユーリ「しつてんと……ごうたい」

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(2022年10月28日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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