[logo] Web連載「数学ガールの秘密ノート」
Share

第374回 シーズン38 エピソード4
力のモーメント(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

$ \newcommand{\TEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\ABS}[1]{\left|#1\right|} \newcommand{\SQRT}[1]{\sqrt{\mathstrut #1}} \newcommand{\FOCUS}[1]{\fbox{ $\mathstrut#1$ }} \newcommand{\GEQ}{\geqq} \newcommand{\LEQ}{\leqq} \newcommand{\NEQ}{\neq} \newcommand{\PS}[1]{\left(#1\right)} \newcommand{\KAKUDO}[1]{#1^\circ} $

僕の部屋

ユーリは、ネジを回すドライバーの話題からテコの原理についておしゃべりをしていた(第371回参照)。

質点と剛体の話(第372回参照)から、力のモーメントに話は広がった(第373回参照)。

ユーリ「ねーお兄ちゃん、この図で並進運動しない条件は $F_1 + F_2 - F_3 = 0$ って言ったよね?」

静止している棒が並進運動しない条件

$$ F_1 + F_2 - F_3 = 0 $$

「そうだね。 式の中で $F_3$ にマイナスが付いているのは、向きが逆だから。 それから一般には、ベクトルの和として考える必要があるけれど——」

ユーリ「それそれ! ベクトルの和って、こーゆーんじゃなかったっけ?」

ベクトルの和

「うん、そうだよ。 ベクトルを矢印で表すなら、 二つのベクトル $\vec a$ と$\vec b $の始点を合わせて角を作り、そこから平行四辺形を作ると、その対角線を使ってベクトルの和$ \vec a + \vec b$が作れる」

ユーリ「でもお兄ちゃん、さっき、最初から平行な力 $F_1$ と$F_2$を足し算したよね。 平行なベクトルで角はできないから、足せないのでは?」

「おっと! ユーリは鋭いなあ……うん、それはね、剛体に働く力について順を追って話す必要がある」

ユーリ「剛体に働く力——それって、めんどくさい話?」

「いや、めんどくさくはないよ」

ユーリ「ならかまわんよ。話したまえ」

「偉そうだな……」

ユーリ「苦しゅーない。語りたまえ」

剛体に働く力の三要素

「剛体に働く力を考えるときには、三つのことを考える必要がある。剛体に働く力の三要素というけど、このうち二つはわかるよね」

ユーリ《向き》《大きさ》でしょ。力には向きと大きさがあるから」

「その通り!」

ユーリ「《向き》と《大きさ》と、もう一つあるの? 何だろな……あっ、待って! わかるような気がする!」

「それはすごい」

ユーリ「質点は大きさがなくて、剛体は大きさがある。だから、剛体のどこに力が働くかってことじゃない? だから、力が働く位置だ! そーでしょ?」

「ユーリは賢いなあ! それはかなり正解に近い。というかほとんど正解だね」

ユーリ「むむ? 大正解じゃなくて、ほとんど正解?」

「剛体に働く力の三要素は、《向き》と《大きさ》と《作用線》になる。この三つが決まれば、その力が剛体に及ぼす影響が決まる。 この三つを決めなくては、剛体に及ぼす影響は決まらない」

ユーリ「さようせん……って何じゃ?」

作用線

「剛体に、こんなふうに力が働いているとする。そのとき、力が働いている点を通って、力と向きが一致する直線が作用線になる」

剛体に働く力の作用線

ユーリ「ふーん……それで?」

「力が剛体に働くとき、その影響や効果は《向き》と《大きさ》と《作用線》で決まる。 《作用線》はユーリがさっき言ったように、剛体のどこに力が働くか。力が働く位置に相当するもの」

ユーリ「えっ? 違うもん。ユーリは、剛体のどこか一点に力が掛かるって話をしてたんだもん。 だって、剛体の端っこを引っ張るのと、真ん中へんを引っ張るのは違うでしょ? 作用線は直線だから一点じゃないよ」

「そうだね。その通り。だから僕はユーリの答えをほとんど正解って言ったんだ」

ユーリ「うーん?」

「《向き》と《大きさ》と《作用線》という三つが同じ力は、剛体に対して同じ効果を及ぼす。 別の言い方をすれば、力は《作用線》上を自由にスライドさせても、剛体に対する効果はまったく同じ。 自由にスライドさせてかまわない。 剛体に働く力にはそういう性質があるんだ」

力は《作用線》上をスライドさせてもかまわない

ユーリ「信じらんない」

「じゃあ、これはどうかな。剛体に対して、二つの力が働いているとする。 《向き》が逆で、《大きさ》が等しくて、《作用線》が一致している。このとき、この二つの力はお互いに打ち消しあって、何も力が掛かってないことになる。 これは納得できる?」

《向き》が逆で、《大きさ》が等しくて、《作用線》が一致している二つの力は打ち消しあう

ユーリ「わかる。ナットク。力が掛かってないのと同じで、何も起きない」

「これが納得できるなら、剛体に働く力が《作用線》上を自由にスライドしても効果が変わらないのも納得できるよ」

ユーリ「えーっ何で? 似てるけど、違う話じゃん?」

無料で「試し読み」できるのはここまでです。 この続きをお読みになるには、Web連載のご購読が必要です。

ひと月500円でWeb連載をご購読いただくと、 376本すべての記事が読み放題になりますので、 ぜひ、ご購読ください。


購読済みの方/すぐに購読したい方はこちら

結城浩のメンバーシップで購読 結城浩のpixivFANBOXで購読

(2022年11月11日)

[icon]

結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

Twitter note 結城メルマガ Home