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第376回 シーズン38 エピソード6
遠心力という見かけの力(後編) ただいま無料

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

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図書室にて

テトラちゃんの《力学トーク》は続いている。

いまはテトラちゃんがまちがったという物理学のクイズ、 すでに正解は出ているけれど、 その理由について議論をしているところ。

クイズ(再掲)(第375回参照

図のように、糸の付いたおもりが滑らかな机の上で一定の速さで円を描いて回転しています。

固定点には机にピンが打ってあり、糸はおもりと固定点にあるピンを結んでいます。

さて、ある瞬間に糸が切れたとします。切れた瞬間の位置から、おもりはどの向きに飛んでいくでしょうか

糸の伸び縮み、空気の抵抗、糸とピンの摩擦、机とおもりの摩擦は考えないものとします。

クイズの答え

回転運動と力

いま、テトラちゃんは糸が切れる前におもりに働く力をすべて見つける考察を済ませ、 最後にはたった一つの力が残った。糸からの張力だ(第375回参照)。

が、遠心力は《見かけの力》だと伝えると、テトラちゃんはショックを受けた。

糸からおもりに働く力

テトラ「……あたしには、どこがおかしいか、まだわからないようです。 遠心力がないと言われると、かなりショックです」

「いや、遠心力という概念がないわけじゃないよ。説明を続けていけば《見かけの力》として、ちゃんと出てくる」

テトラ「遠心力は……見かけの力?」

「そうだね。でも《見かけの力》について話す前に、 まずは《糸からおもりに働く力》だけで回転運動していることをちゃんと理解しないとね」

テトラ「はい……あたしは《糸からおもりに働く力》だけなら、 おもりはピンのある固定点に向かうんじゃないかと考えてしまうんです。 だから、反対方向の力がある……つまり遠心力があると思ってしまいます」

「うん。あのね……もしもおもりが静止していたとしたら、 《糸からおもりに働く力》によっておもりはピンのある固定点に向かって動き始めることになる。 それはそうだよ。でも、このおもりは回転運動をしている。 つまりこのおもりは、円の接線方向への速度を持っているわけだ。 それが大きな違いになる」

テトラ「あたし……おもりが回転運動しているときに、 何が起こっているかうまく言えませんね」

「おもりが回転運動をしているときに何が起きているのか。 それは物理量を表す言葉で表現できる。 いまから、おもりの運動をあらわすためにいろんな言葉を再確認していこうか。 まずは、位置と速度から。どちらもベクトルで表せるから、位置ベクトルと速度ベクトルになる」

テトラ「はい……」

位置ベクトルと速度ベクトル

「時刻ごとに、おもりには位置がある。 この時刻にはこの位置にあり、別の時刻には別の位置にある。 このおもりの場合には、位置は二次元ベクトルで考えることができる。 時刻 $t_1$ の位置は $\vec x_1$ で、時刻 $t_2$ の位置は $\vec x_2$ のようにね」

テトラ「はい、それは大丈夫です。原点をピンの位置に取ったわけですよね?」

「うん、そうそう。 そして、時刻 $t_1$ から時刻 $t_2$ までの《平均の速度》は《変位を掛かった時間で割ったもの》になる。 変位というのは位置ベクトルの変化のことで、これもベクトル。つまり変位ベクトルだね。 変位ベクトルは、 $$ \vec x_2 - \vec x_1 $$ で、その変化に掛かった時間は、 $$ t_2 - t_1 $$ なので、平均の速度は $$ \frac{\vec x_2 - \vec x_1}{t_2 - t_1} $$ になる。平均の速度もベクトルだよ」

テトラ「えっと……ちょっと自信がなくなってきました」

「《向き》と《大きさ》があるものはぜんぶベクトル。位置も変位も速度もすべてベクトル」

テトラ「は、はい……」

【CM】

ユーリ「ここでCM! ベクトルについては『ベクトルの真実しんじつを読んでね!」

「具体的に変位ベクトルの図を描いてみようか。時刻 $t_1$ と$t_2$における位置の変化というのは、 要するにこういうベクトルのこと。これが変位ベクトル $\vec x_2 - \vec x_1$ になる」

変位ベクトル $\vec x_2 - \vec x_1$

テトラ「あ、ベクトルの差だからそうなりますね。 そして変位へんいという気持ちもわかりました。 時刻 $t_1$ のとき位置から時刻 $t_2$ の位置までの矢印で、 位置がどう変わったかを表しているんですね」

「そうだね。ここまでが変位ベクトルの話」

テトラ「はい」

「そして、ここから速度ベクトルの話。 速度ベクトルの向きに関してはこの変位ベクトルの向きと同じでいいんだけど、 速度ベクトルの大きさ——つまり速さ——については、 この変位ベクトルの大きさを掛かった時間で割る。 だからたとえば、こんな矢印のようになる。向きは変位ベクトルと同じだけど、長さが違う」

平均の速度ベクトル $(\vec x_2 - \vec x_1)/(t_2 - t_1)$

テトラ「でも、おもりがこんなふうに斜めにジャンプするわけではない……ですよね?」

「そうだね。おもりが斜めにジャンプするかのように見えるのは、時刻 $t_1$ と時刻 $t_2$ のようにジャンプした二つの時刻で考えたから」

テトラ「ははあ……」

「実際に回転運動しているおもりは瞬間瞬間に進む向きを変えている。 だから $t_2 - t_1$ が大きくなると、実際の動きとのずれも大きくなる。 そこで数学が出てくる」

テトラ「もしかしてですけど……極限が出てきますか?」

「そうそう!  $t_2$ を$t_1$に近づけていったとき、平均の速度ベクトルはどのようなベクトルに限りなく近づくかという極限を考えることになる。 ちゃんとテトラちゃんは重要概念をおさえているね」

テトラ「き、恐縮です」

「時刻 $t_2$ を、時刻 $t_1$ に近づけたとき 平均の速度ベクトルが限りなく近づくベクトル。それが、時刻 $t_1$ における瞬間の速度ベクトルになる。 それは結局、おもりの変位ベクトル $\vec x$ を時刻 $t$ で微分する計算になるわけだけど……でも、 図で見るとかなり直感的にわかるよ」

テトラ「?」

「というのは、 $t_2$ を$t_1$に近づけていくようすをこんなふうに描いてみれば、 $t_1$における瞬間の速度ベクトルは接線方向になると想像がつくから」

テトラ「はい、はい、そうです。そもそも接線というのがそういうものでしたし、あたしが極限というキーワードを思い出したのも、 こういうイメージがあったからです……」

「と、ここまでが、おもりが持っている速度ベクトルの話。数式できちんと示したわけではないけれど、 回転運動しているおもりの位置ベクトルと速度ベクトルがどんな様子をしているかの説明」

そこでテトラちゃんが手を挙げる。

テトラ「確認したいことがあります」

「はいはい、どうぞ」

テトラちゃんの確認

テトラ「速度ベクトルはおもりの位置が変われば変わりますよね?」

「うん、もちろん。一定の速さで回転運動しているおもりだから、速度ベクトルの《大きさ》はいつも一定だけど、 速度ベクトルの《向き》は時々刻々変わっていくよ。そして一回転したら、最初の向きと同じ向きになっている」

テトラ「ちょ、ちょっとしつこくてすみませんが、もう一つ確認してもいいですか」

「どうぞどうぞ」

テトラ「おもりの位置ベクトルも刻々と変わりますよね。そして一回転したら最初の向きと同じ向きですね?」

「そうそう。いまは固定点を原点に取っているから、 位置ベクトルの《大きさ》はいつも一定。この円運動の半径そのものになる。 でも位置ベクトルの《向き》は時々刻々変わっている」

位置ベクトルの変化のようす

速度ベクトルの変化のようす

テトラ「はい……はい……ここまで、あたしは理解していると思います。 一定の速さで円運動をしているおもりがあって、位置ベクトルの変化と速度ベクトルの変化、どちらも想像できています」

「いいね! あとは力との関係を押さえればいい!」

テトラ「力との関係……」

ニュートンの運動方程式

ニュートンの運動方程式で表される運動の法則だね。それは力と加速度の関係を表している」

運動の法則(ニュートンの運動方程式)

質量が $m$ の質点に対して力 $\vec F$ が掛かっているとき、 質点の加速度を $\vec a$ とすると、 $$ \vec F = m \vec a $$ が成り立つ。

テトラ「はい。ニュートンの運動方程式については知っていますが……知っていると思いますが……」

【CM】

ユーリ「ニュートンの運動方程式を学ぶ『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』はこっちですぞ!」

「力と加速度の関係だけど、力というベクトルと、加速度ベクトルの関係のように《ベクトル》という言葉を補って考えた方がいいね。 力も加速度も《向き》と《大きさ》を持っているベクトルだから」

テトラ「はい。それも知っています。力も加速度もベクトルです」

「$\vec F = m \vec a$ という式から、力と加速度の関係がわかる」

  • 力の《大きさ》と加速度の《大きさ》は比例の関係にある。
  • 力の《向き》と加速度の《向き》は同じ向きである。

テトラ「は、はい……大丈夫です。あたしはわかっていると思います」

「あとは加速度ベクトルと速度ベクトルの関係を思い出す。 加速度ベクトルというのは、速度ベクトルを時刻で微分したものだった」

テトラ「それも……わかっているはずです」

「じゃ、別の言い方で理解を確かめてみようか。クイズだよ」

クイズ

「物体の位置が変化しているとき、その位置の変化の向きに力が掛かっている」という表現は物理的に正しいか?

テトラ「力の大きさはとりあえず考えないということですね。 大きさを考えないなら、物体が動く向きと力の向きが合ってるというのは《正しい》と思います」

「うーん……残念」

クイズの答え

「物体の位置が変化しているとき、その位置の変化の向きに力が掛かっている」という表現は物理的に正しくない

テトラ「えっ? 力の大きさはとりあえず考えないんですよね?」

「うん、いまは力の大きさは問題にしていないよ。 『物体の位置が変化しているとき、その位置の変化の向きに力が掛かっている』というのは《正しくない》んだ」

テトラ「え、えええ!? だっていま、ニュートンの運動方程式で向きが同じのを確認したばかりですよっ!」

「もう一度確認して。 ニュートンの運動方程式は《力と位置》の関係を表しているんじゃなくて、 《力と加速度》の関係を表しているよね。 $$ \vec F = m \vec a $$ 力というベクトルは位置ベクトルに影響するんじゃなくて、 加速度ベクトルに影響するんだ」

テトラ「え、あ……はい、確かにそうですね! 位置じゃなくて、加速度でした」

「うん」

テトラ「でも、あの……す、すみません。確認なんですが、物体が動くのは力で動くんじゃないんですか。 物体を動かすために力を掛けますよね?」

「物体を動かすために力を掛けることはふつうにあるよ。 物体に力を掛けて、質量に応じた加速度を与える。力を掛け続けると物体の速度が変わる。その結果、目的のところまで物体の位置を動かせる……ことになる」

テトラ「うーん……」

「でもね、物体の位置が変化すること——つまり物体が動いていること——というのは物体に力が働いているしるしじゃない。 物体が動いているから力が掛かっているなんていえない」

テトラ「ええ……?」

「だって、力が働かなくても物体は動いていることがある。ただし、速さが一定で直線上を動くという制限があるけれど。 力が働いていなければ、等速度運動……等速直線運動をする。動いているよね?」

テトラ「あっ、理解しました! あたし、誤解してましたっ! 位置と速度と加速度をごちゃまぜにしていました」

「うん」

テトラ「仕切り直します……まず、運動の法則は力と加速度の関係です。 そして、力を掛けると、加速度を与えられます。 ということは、おもりに力を掛けることで、おもりの速度が変化しますよね?」

「そうそう! おもりに掛かった力は、おもりの質量に応じておもりの速度ベクトルを変化させることになる」

テトラ「あら? でも、おもりは等速度で回転していますよ?」

「いやいや、等速度で回転することは不可能だよ。等速度といったら、向きも一定になってしまう。 速度はベクトルだから《向き》と《大きさ》があることに注意。 おもりは一定の速さで回転している。つまり、おもりの速度ベクトルは一定の《大きさ》だけど、速度ベクトルの《向き》は刻々と変わっている。 それはさっきも見た通り」

テトラ「確かに! ……あ、待ってください。あたし、わかったような気がします。 もしかして……」

「……」

テトラ《糸からおもりに働く力》は、おもりの速度ベクトルの《向き》を変化させているのですね? 時々刻々と」

「うん。速度の《向き》を変化させている。正しいよ!」

テトラ「でも、《糸からおもりに働く力》は、おもりの速度ベクトルの《大きさ》は変化させていません! そうですね!?」

「そうだね。速度の《大きさ》は変化させていない。はい、大正解! いまテトラちゃんは、一定の速さで回転しているおもりに働いている力の役割をつかまえたことになるね」

テトラ「あたし、かなり納得しました!」

「《糸からおもりに働く力》というベクトルと、《おもりの速度》というベクトルを見ると、 いつもこの二つのベクトルは垂直だよね」

テトラ「はい、そうですね。だって力のベクトルは円の半径方向ですが、速度ベクトルは接線方向ですから」

「だから、《糸からおもりに働く力》は、速度ベクトルの《大きさ》を変えることには何も寄与しない。ただ速度の《向き》を変えることだけに寄与していると考えられる」

テトラ「わかりました! いつもいつも速度ベクトルの向きを変え続けている力ということですね! ああ、すごく納得です。 だとしたら確かに、おもりに働く力一つで回転運動になりそうです。納得です」

「たとえば地球のまわりを回る衛星……つまり月も同じだね。地球の引力という一つの力で、地球の周りを回転運動している」

テトラ「そういえば!」

「そして、糸が切れたときに何が起こるかももうわかったね。糸が切れたら《糸からおもりに働く力》はもうなくなってしまった。だから」

テトラ「はいっ! だから、接線方向に等速直線運動をする。力が何も掛かっていないからです」

「そうだね。……で、ここまでで話は一区切り。でもテトラちゃんの疑問はまだ解決していない」

テトラ「はい?」

遠心力という《見かけの力》を説明していないから」

テトラ「あっと、そうでした! 遠心力はぜんぜん出てきてません。でも、おもりに働く力として……遠心力が出てくる余地はあるんでしょうか」

遠心力という《見かけの力》

「いままで僕たちは、机の上で回っているおもりを見てきたよね。 それほど厳密な座標平面は描かなかったけど、原点は固定点に合わせて、原点のまわりを回っているおもりを僕たちは観察する」

テトラ「はい、そうですね。おもりが回る様子を考えてきました。おもりに働く力を考えたり、位置や速度や加速度を考えて……」

「そのとき、観察している僕たちは静止していたわけだ」

テトラ「あたしたち? ……はい、あたしたちは静止していますね」

「そのときには遠心力のような《見かけの力》は出てこない」

テトラ「……」

「ここからは、僕たちがおもりの上に乗っていると考える」

テトラ「先輩とあたしが? 二人で? おもりの上に乗る??」

「そういうこと。もちろん想像の上でだよ。大きさが難しかったら小さくなって乗っているとしよう」

テトラ「シルバニアファミリーみたいに小さくなって、ちょこんと?」

「シルバニアファミリーって何?」

テトラ「すみません、話がそれちゃいました。小さくなっておもりの上に乗る。あたしと先輩がいっしょに乗ります。はい、乗りました……」

「そして、僕たちのいるおもりの上に原点を取って新たな座標系を考える。僕たちが座標平面をグラフ用紙に描いておもりに乗せているみたいなイメージ」

テトラ「え……でも、そうすると座標平面がぐるぐる回ることになります」

「おもりに乗らず、外で静止している観察者にはそう見えるけど、 僕たちはおもりの上に乗っているんだ。だから座標平面は僕たちにとって静止しているし、おもりも原点から動かない。 そんなようすを想像する。それほど難しくはないよね」

テトラ「はい、想像しましたけれど……?」

「すると、おもりに乗っている僕たちには、おもしろい現象が見える。 おもりには糸がついていて、糸からおもりに力が掛かっている。張力だね。 僕たちがおもりに乗ったとしても、張力は変わらない」

テトラ「そうですね」

「ところが、不思議なことに、おもりは静止している」

テトラ「え、回ってますけど……」

「おもりに乗っている僕たちにとっては静止しているように見える」

テトラ「ははあ……確かにそう見えますね。おもりに乗ってグラフ用紙を広げているあたしたちにはそう見えます」

「おもりには糸から力が掛かっているのに、おもりは静止している。 ということは《糸からおもりに掛かる力と釣り合う別の力》が掛かっているかのような現象が起きているように見える」

テトラ「おもりに乗っているあたしたちの目には、そう見える……もしかしてその《糸からおもりに掛かる力と釣り合う別の力》が遠心力なんですか?」

「うん、そういうこと! そして実際、おもりに乗っている僕たちも、糸の向きとは反対方向に遠心力を感じるはず。 吹き飛ばされないように必死でおもりにつかまっているかもしれない」

《静止している観察者》と《おもりに乗っている観察者》

テトラ「ちょっと待ってください……うう」

テトラちゃんは、頭を抱えてうなった。

「……ここまでの話はわかったかなあ」

テトラ「……はい。先輩のお話はわかったと思います。ただ、たくさんの疑問が出てきました」

「だよね、きっと」

テトラ静止して観察している人から見ると、おもりに働く力は《糸からの張力》しかない。これは正しいですよね?」

「うん、正しいよ。《糸からの張力》だけ。 重力と机からの力もあるけれど、それは相殺している状態だね。 そして《糸からの張力》によって、このおもりは回転運動をしている」

テトラおもりに乗って観察している人から見ると、おもりに働く力は《糸からの張力》と《遠心力》の二つがある。これも正しいんですか?」

「うんうん、それも正しいよ。おもりに働く力は《糸からの張力》と《遠心力》の二つがあると考えることができる。 そしてその二つの力が釣り合っているからこそ、おもりに乗っている人にとっては、おもりは静止しているわけだ」

テトラ「そ、それはおかしいと思います! だって、力って働くか/働かないか、どっちかじゃないんでしょうか。 観察する人が変わるだけで、力が働いているかどうかが変わるなんて、納得できません!」

「テトラちゃんの主張は確かに正しい。だから、あくまで《遠心力》は《見かけの力》なんだ。 おもりに対して実際に遠心力という力が働いているわけじゃない。ただ、遠心力という力が働いていると見なす。 遠心力という力が働いていると考えると非常に便利だから、そういう力を導入しているんだよ」

テトラ「ちょ、ちょっと待ってください……新たに二つ疑問が浮かびました」

「どうぞどうぞ」

テトラ「遠心力という力は、実際の力じゃない……んですか?」

「実際の力じゃなくて、あくまで《見かけの力》だね」

テトラ「先輩、でもですね、おもりに乗っている人からしたら、実際におもりに力が掛かってますよね? 実際に力が掛かると感じるなら、 《見かけの力》じゃなくて、実際の力じゃないんでしょうか」

「おもりに乗っている人には実際の力のように感じる。でも、遠心力には作用・反作用の法則の相手がいないんだよ。 作用・反作用の法則の話をしたときに、 $X$ と$Y$を入れ換える話をしたよね(第375回参照)。 《$X$ から $Y$ に働く力》と《$Y$ から $X$ に働く力》は必ず対になって生じる。 片方は $Y$ に働く力で、もう片方は $X$ に働く力」

テトラ「ああ……」

「遠心力を《$X$ からおもりに働く力》だとしたとき、 $X$ に相当するものは存在しないんだ。つまり、おもりに対して遠心力という力を掛けている存在はどこにもないんだ」

テトラ「なるほど……なるほどです! いま、初めてあたし《見かけの力》の意味がわかったように思いますっ!」

「それはよかった。もう一つは?」

テトラ「もう一つ?」

「二つの疑問のもう一つ」

テトラ「ああ、はい。あのですね。先ほど先輩がおっしゃった《便利》という言葉に引っかかりました」

「遠心力という力が働いていると考えると非常に便利」

テトラ「それです! 便利ってどういうことでしょう」

「それははっきりしているよ。ニュートンの運動方程式が使えて便利という意味」

テトラ「????」





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(第376回終わり)

(2022年11月25日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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