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第15回 シーズン2 エピソード5
数当てマジックと31の謎(前編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

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の部屋

ユーリ「ねーお兄ちゃん! 目、つぶって!」

「なんで?」

ユーリ「きれいな女の子に『目、つぶって』って言われたら即、つぶるもんだよ!」

「どこにきれいな女の子が……はいはい、つぶりましたよ」

数当てマジック

ユーリ「じゃじゃーん! 目、開けていいよ」

「何このカード」

ユーリ「ふふふ、これからユーリは《数当てマジック》を始めまーす!」

「プロのマジシャンは、これからどんなマジックをするか、先に言わないそうだよ」

ユーリ「うっさいなー。いいから、ユーリのゆーこときくの!」

「はいはい。ところで、お兄ちゃんが目をつぶる理由はどこにあったんだ?」

ユーリ「演出というものだよ、エンシュツ」

「いいけど、とにかくユーリが数を当てるんだね」

ユーリ「そだよん」

数当てマジック

これから、あなたの好きな日を当ててみせましょう。

何月でもかまわないので、好きな日の数を思い浮かべてください。


・2月14日が好きなら→14
・3月16日が好きなら→16
・12月24日が好きなら→24

思い浮かべたら、5枚のカードのうち、 《その数が出てくるカード》だけをすべておもてにしてください。

《その数が出てこないカード》は裏返しに伏せてください。

「ええとね、ユーリ。盛り上がっているところ悪いんだけど、このマジックの……」

ユーリ「ねーお兄ちゃん! どーせお兄ちゃんのことだから、 『このマジックのタネ、知ってるよ』とかゆーんでしょ?」

「うん。このマジックのタネ、知ってるよ」

ユーリ「んもー! そーゆーときはね、知らないふりをして驚いてみせるのがエチケットだよ。 そんなことだから女の子の気持ちがわからないんだよー」

「はいはい。わかったよ。わからないふりをしてあげよう」

ユーリの実演

ユーリ「はい! お兄ちゃん、数を思い浮かべた? ユーリに言っちゃダメだよ」

「いいよ。思い浮かべた。 $1$ 〜 $31$ の間だよね」

ユーリ「そーそー。では、その数が出てくるカードだけを、ぜんぶオモテにしていただけますかな?」

「そうだな。これと、これだね」

思い浮かべた数が出てくるカードだけをすべて表にする

ユーリ「ほほー。……なら、そなたの思い浮かべた数は《$12$》じゃな?」

「そうだね」

ユーリ「ノリ悪いにゃあ! そこで『うわっ、すごいなユーリ! なんでわかるんだっ!』って驚いてみせるのがエチケット」

「うわすごいなユーリなんでわかるんだ」

ユーリ「……きらい」

「わかったわかった。……ところで、お兄ちゃんにもそのマジックさせてくれないかな。今度はユーリが数を思い浮かべる番」

ユーリ「へ? お兄ちゃんもこれ、できんの?」

「タネ知ってるからね」

の実演

ユーリ「……いいよ、思い浮かべたよ。数」

「では、その数が出てくるカードだけを、すべて表にしていただけますかな?」

ユーリ「えーっとね、これとこれと、これだにゃ」

「ほほう、それなら、ユーリの思い浮かべた数は《$21$》じゃな?」

ユーリ「そーだね」

「ノリ悪いにゃあ」

ユーリ「ユーリのまねするなー!」

《数を当てる方法》と《数が当たる理由》

「この数当てマジックで《数を当てる方法》は簡単だよね」

ユーリ「うん! あのね、相手が選んだカードの左上の数を足せばいいんだよ!」

数を当てる方法

相手が選んだカードの左上の数を足せば、相手が選んだ数になる。

相手が $12$ を選んだときの様子

相手が $21$ を選んだときの様子

「うん、そうだね。だから、このカードを持っていて、この《数を当てる方法》を知っている人なら、 誰でもこのマジックができるね」

ユーリ「なんか引っかかる言い方」

「ところでユーリ。《数が当たる理由》は、わかってる?」

ユーリ「へ? もちろん、わかってるよ。いま言ったじゃん。カードの左上の数をぜんぶ足して」

「それは、《数を当てる方法》じゃないの? どうして数を当てることができるかという《数が当たる理由》はわかっていないんじゃない?」

ユーリ「《数を当てる方法》と《数が当たる理由》って……おんなじじゃん」

「いやいや違うよ。《数が当たる理由》というのは、 《カードの左上の数をすべて加えると相手が想像した数になる》というその理由のことだよ。なぜ、そうなるか」

ユーリ「そんなこといったって……だって、そーゆー具合にカードを作ったからそーなるんじゃん!」

「いやいやいや、それじゃ理由にも何もならないよね」

ユーリ「そっかなー」

「じゃあ、こういう言い方をしよう。 ユーリが持ってきたこの $5$ 枚のカードをなくしちゃったとしよう。 ユーリは何も見ないでこの $5$ 枚のカードを作れる?

何も見ずにこの $5$ 枚のカードを作れるか

ユーリ「う。……作れにゃい。あ、でもこの付録がついてきた雑誌、もっかい買えばいい!」

「これ、雑誌の付録なのか。まあとにかくユーリは作れない、と。 それは《数が当たる理由》を知らないからだよ。それ、ちょっとつまらないよね?」

ユーリ「う。……ま、まーね」

「じゃあね、『どうしてこのカードで、どうしてこの方法で、数が当たるのか』 という理由をじっくり考えてみよう」

ユーリ「ふんふん」

「理由がきちんとわかったら、数当てマジックをさらにバージョンアップできるかもしれない」

ユーリ「ばーじょんあっぷって?」

「たとえば、ユーリが持ってきた $5$ 枚のカードだと、 $1$ から $31$ までしか当てることができない。 でも、 $31$ より大きな数まで当てられるようにカードの枚数を増やせるかもしれない——《数が当たる理由》がわかればね」

ユーリ「へー……あのね、お兄ちゃん。ユーリはね、 $31$ まで当てることができるのは、 日付が $1$ から $31$ までだからだと思ってた。違うの?」

「違うよ。きっとこのカードを作った人は、 $31$ が一番大きな日付になっていることを利用したんだと思う。 でも、 $31$ には別の意味があるんだよ。 《数が当たる理由》がわかれば、それもわかる。 カードの謎を解けば《$31$ の謎》も解ける

ユーリ「お兄ちゃん! 教えて教えて!」

$1$ から $1$ まで当てるカード

「教えてもいいけれど、お兄ちゃんがぜんぶ話したらつまらないだろ。 いっしょに考えてみよう」

ユーリ「それはいーけど……考えるって?」

「いきなり $31$ はたいへんだから、まずは《小さな数で試す》のが大事だね。 つまり、《$1$ から $31$ まで当てるカード》じゃなくて、 まずは《$1$ から $1$ まで当てるカード》を作ってみることにしよう」

ユーリ「$1$ から $1$ まで当てる……って、なに言ってんのお兄ちゃん。そんなの、当たるに決まってんじゃん」

「まあまあ。《$1$ から $1$ まで当てるカード》ならユーリも作れる。カードは $5$ 枚もいらないよね」

ユーリ「こーゆーカードが $1$ 枚あればいーんでしょ? ぜんぜん意味ないけど」

《$1$ から $1$ まで当てるカード》

「そうそう、いいね。 $1$ と書かれたカードが一枚あればいい。 そして、相手は《$1$ から $1$ までのうち、好きな数を思い浮かべてください》といわれて、 このカードを選ぶわけだ」

ユーリ「変なの」

「こういう《極端なことを考える》のは大事なんだよ」

ユーリ「そーかなー」

$1$ から $2$ まで当てるカード

「じゃあ次だよ。ユーリは《$1$ から $2$ まで当てるカード》を作れるかな」

ユーリ「あっ、そーゆーことか。だんだん増やすんだね」

「そうそう」

ユーリ「こーすればいい?」

《$1$ から $2$ まで当てるカード》

「いいね。 $2$ が書かれたカードと、 $1$ が書かれたカード。この $2$ 枚があればいいよね」

ユーリ「これさー、思い浮かべた数のカードを相手が見せてくれることになるじゃん。 マジシャンは《数を当てる》じゃなくて、《数を教えてもらう》ことになるよ!」

「おっ、ユーリは賢いなあ」

ユーリ「へ? だってそーでしょ?」

「その通りだね。マジシャンは相手に《数を教えてもらう》ようなものだ」

ユーリ「? ……そんで次は、 $1$ から $3$ まで?」

$1$ から $3$ まで当てるカード

「そうだね。《$1$ から $3$ まで当てるカード》を作りたいとしたらどうする?」

ユーリ「また教えてもらえばいーんだよ。こーゆー $3$ 枚で」

《$1$ から $3$ まで当てるカード》?

「確かに $3, 2, 1$ の数がそれぞれ別なカードに書いてあれば、数は当てられるけど……」

ユーリ「けど?」

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(2013年2月8日)

書籍『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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