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第132回 シーズン14 エピソード2
積もり積もる(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』として書籍化されています。

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだけれど飽きっぽい。

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《速度のグラフ》が作る面積が《位置のグラフ》になるという話(第131回参照)から、 《微分の逆演算が積分である》という話へ……

ユーリ「微分のときって《微分定数》って出てこなかったよね? なんで積分だと《積分定数》 なんて出てくるの?」

「それはね……《$\frac13t$ を $t$ で微分したら $\frac13$ になる》というのは正しいんだけど、 逆に《微分して $\frac13$ になる関数は $\frac13t$ だけじゃない》からなんだよ。 $t$ で微分したら、 $t$ とは関係ない定数部分は $0$ になる。 だから、定数部分を変えるだけで、微分して $\frac13$ になる関数は無数に作れることになる。 $\frac13t + 1$ も、 $\frac13t + 2$ も、 $\frac13t + 10000$ も……どれも、微分すれば $\frac13$ になる。 だから、逆演算として積分を表現するのは注意がいるんだよ。一つに決まらないから」

ユーリ「ふんふん?」

「でもね、無数にあるといっても、定数分だけの違いしかない。 だから、定数をぜんぶまとめて $C$ としておきましょうっていうことだね。それが積分定数。 $C$ である必要はなくて、 $A$ でも $B$ でもかまわないけどね」

ユーリ「ふーん……」

「あれ、反応いまいちだな」

ユーリ「あのね、積分定数の話はわかったし、 積分が微分の逆演算ってのもわかったんだけど、 面積って、要するに長方形の面積だし、掛け算すればいいじゃん? それが積分なの? 掛け算が積分?」

「なるほど。そこがおもしろいところだよ、ユーリ」

ユーリ「お兄ちゃん、目がきらりんと光ったよ」

速度が途中で変わるとき

「もちろん、ユーリがいうように、長方形の面積を求めたかったら話は簡単だよ。 単なる掛け算でおしまいだ。縦×横でも、横×縦でもいいけど、掛け算すればいい。 《速度のグラフ》から《位置のグラフ》を求めるときでもそれは同じ」

ユーリ「うん」

「掛け算で済むのは、速度がずっと変わらない場合の話だよね。 速度が一定だから、《速度のグラフ》が作る形が長方形になり、 だから、面積は掛け算で求められる。そうだよね」

ユーリ「あ、そだね」

「たとえば、さっきの《水槽に水を入れる問題1》(第131回参照)を少し変えてみよう。 こんな問題2はどう考える?」

問題2(二本の管と水槽)

円筒形の水槽に水を入れましょう。

太い管と細い管の二本を使って水を入れることができます。

太い管から水を入れると、水面の位置は $1$ 分で $3$ cm増加します。

細い管から水を入れると、水面の位置は $1$ 分で $2$ cm増加します。

はじめの水面の位置は、 $2$ cmです。

最初の $2$ 分間は太い管だけから水を入れ、 次の $2$ 分間は太い管と細い管の両方から水を入れ、 さらに次の $2$ 分間は細い管だけから水を入れ、そこで水を止めます。

そのとき、水面の位置は何cmになっていますか。

なお、水槽は十分に深く、あふれないものとします。

ユーリ「どー考えるって……やっぱり掛け算じゃん」

「じゃあ、答えてみてよ」

ユーリ「めんどいにゃ……えーとね。 サンニガロクと、 $3$ と $2$ で $5$ だからゴニジュウ、あとニニンガシだから、 答えは $20$ でしょ?」

「ぶぶー。違います」

ユーリ「あれ?  $6$ と $10$ と $4$ で $20$ じゃないの? あー、最初が $2$ だから、 $22$ だった。 単純な計算ミスだね! ユーリはちゃんと解けるよ」

「ねえユーリ。計算問題を解いてるときに、単純な計算ミスっていう言いわけは《ない》んじゃない?」

ユーリ「むー。だって、こんな簡単なの、暗算でちゃちゃっと解きたいじゃん」

「無理に暗算でちゃちゃっと解こうとしてまちがうのはかっこ悪くない?」

ユーリ「あーもー、先生トークはいいから!」

「確かにこの問題はやさしい問題だけど、文章がごちゃごちゃしているから勘違いしやすいよね。 だから、いったん《情報を整理する》のが大事になってくる」

ユーリ「(先生トーク全開……)」

「水面の位置が上がる速度はこう整理できる。 問題文を読みながら、箇条書きするだけでもいいんだよ」

情報を整理する(速度)

太い管の速度  $3$(cm/分)

細い管の速度  $2$(cm/分)

両方 の速度  $3+2 = 5$(cm/分)

「この問題2は $2$ 分ごとに状況が変わるから、それも簡単に整理するといいね」

情報を整理する

ユーリ「簡単な話なのに、こんなのいちいち書くのめんどくない?」

「めんどうだと思うこともあるかもね。 でも、書くのに掛かる時間は《ほんのわずか》だし。 たった数秒で書けるよ。ちょっとメモするだけでもいい」

ユーリ「まーね」

「そして、情報を整理したら《速度のグラフ》もすぐ描けるよね。 どういうグラフになるかわかる?」

ユーリ「わかるわかる。最初の $2$ 分まではずっと太い管の速度。 $2$ 分たったところで二本の管使うからドンと上がって、 また $2$ 分たったら細い管だけになるからドンと下がる」

《速度のグラフ》

ユーリ「あとはこの長方形の面積を三つ足せばいいんでしょ? 今度は最初の $2$ cmも忘れずに足すよん」

解答2

最初に、水面の位置は $2$ cmである。

最初の $2$ 分で、水面の位置は、 $3 \times 2 = 6$ cm増加する。

次の $2$ 分で、水面の位置は、 $5 \times 2 = 10$ cm増加する。

最後の $2$ 分で、水面の位置は、 $2 \times 2 = 4$ cm増加する。

求める水面の位置は、 $$ 2 + 6 + 10 + 4 =22 \qquad \textrm{(cm)} $$ となる。

答え: $22$ cm

ユーリ「だから、ユーリは解けてたんだよ。 最初の $2$ cmをちょい忘れただけじゃん。 ……とにかく、やっぱり掛け算だよね。 $2$ 分ごとに掛け算して全部足せばいいんだもん」

「掛け算のあとに足し算がくるのが大事なんだよ。 ところで《位置のグラフ》は描ける?」

ユーリ「描ける描ける」

《位置のグラフ》

「これって、ユーリは速度が変わるところで分けて考えているよね」

ユーリ「あたりまえじゃん。 $2$ 分ごとでしょ?」

「お、でたな、ユーリの《あたりまえ》攻撃。 じゃね、この《位置のグラフ》の(1)(2)(3)は、それぞれ《速度のグラフ》で何を表すかわかる?」

問題3

《位置のグラフ》の(1)(2)(3)は、《速度のグラフ》で何を表すか。

ユーリ「かんたん、カンタン。(1)(2)(3)はそれぞれ、この長方形の面積でしょ? 掛け算そのまんま」

「そうだね。そしてそれぞれ、最初の $2$ 分、次の $2$ 分、最後の $2$ 分に水面が上昇した量になる」

解答3

(1)(2)(3)はそれぞれ、《速度のグラフ》の以下の長方形の面積に対応している。 これは、最初の $2$ 分、次の $2$ 分、最後の $2$ 分に水面の位置 $x$ が増加した量になる。

「この増えた量がぜんぶ、最初の位置に《積もり積もった》結果が、 最後の位置になるわけだね。じゃあ、もっと細かく分けてみよう。この(a)〜(f)は何を表す?」

問題4

《位置のグラフ》の(a)〜(f)は、《速度のグラフ》で何を表すか。

ユーリ「お兄ちゃん、自分で答え言ってるじゃん。細かく分ければいいだけの話でしょ? さっきと同じ」

解答4

(a)〜(f)はそれぞれ、《速度のグラフ》の以下の長方形の面積に対応している。

「そうそう」

ユーリ「ねー、かんたん過ぎて飽きてきたよ。積分の話はどーなったの?」

「ちょっと待って。じゃ、これはわかる? さっきとは違う速度で水を入れるときの問題」

問題5

《速度のグラフ》が以下のようになっているとき、 《位置のグラフ》を描こう。

ただし、水面の位置は最初 $C$ cmであるとする。

ユーリ「え? これさっきやった問題でしょ? 位置がまっすぐ変化するって」

「え? ……ちがうちがう。ユーリ、よくこのグラフの軸を見て。 これは《位置のグラフ》じゃなくて、《速度のグラフ》なんだよ。 速度は一定じゃない」

ユーリ「えーと? あ、そーか。 今度は速度は一定じゃなくて、だんだん速くなってるんだね」

「そう。時刻を $t$ 分として速度を $v$ cm/分で表すと、 $$ v = t $$ になってる。 このときの《位置のグラフ》を描こう!」

ユーリ「ふむふむ!」

「ユーリが描くんだよ」

ユーリ「え」

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(2015年10月9日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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